愛を失う数時間前


 二次会への道すがら、俺の到着前になにがあったのかを知った。

 『→(やじるし)』の通りに進んだ先で、皆が見たもの。
 それはクリスマスムードの中、雨宮が“妻”の服をはだけさせケーキのクリームを体に塗りたくり、舐め、愛撫している様子だった。ふたりは文字通り“いちゃいちゃ”していた。
『……し、新婚さんだから、さ』
 覗き見している罪悪感はあるものの皆、雨宮たちに釘付けだったようだ。

 俺は、マジか……と呟いていた。
 パズルのピースがすべて埋まった感覚だった。
 ……そういうことか、
 ……風香さん、どれだけキツかっただろう。
 
 今すぐ風香さんに電話をしたくなった。
 俺たちの復讐が終わったら風香さんと他愛ない話をたくさんしようと決めていた。もう傷つかなくていいと、言ってあげたかった。

 俺は最後の仕上げに入った。
 予約した店の個室で風香さんから送ってもらった音声テープを、ついさっき貰った態で再生した。
 言いたい放題の雨宮に、何様だよっ、と皆怒り心頭だった。
 そして俺は雨宮にされたことをすべて打ち明けた。終わったことを口にするのは格好が悪いと今まで黙っていたが、そんなくだらないプライドは捨てた。
 それに俺は、何の脚色もせず事実をそのまま話しただけだから。

「――あのですね、私も実は雨宮君に利用されてました」
 遠藤先輩にぴたりとくっつきながら川奈さんが告白を始めた。
 
 自分には、婦人科のクリニックを開業している身内がいるのだが、雨宮から“知人”を診療時間外に誰にも会わずに診察してもらえないかと頼まれていたという。その女性は思春期にショックなことがあり一度も生理がきていないらしい。どんな理由があっても無理な相談だと断ったが雨宮はしつこくつきまとってきて、跳ねのけられなくなっていたのだ、と。
 皆、雨宮が“しつこくつきまとってきた”というのは嘘だろうし、どうみても川奈さんの方が熱を上げていたはずで、もしかしたら雨宮の頼みをネタに関係を迫っていたんじゃ……? と思っているようだったが、うんうん、と聞いていた。
 
「そういえば雨宮君って――――」
 自分たちが目撃者となったセンセーショナルな出来事に皆、おかしなテンションだったが、雨宮を擁護する声はひとつもなかった。
 皆と一緒になってエキサイトしている俺も、いつのまにか自分の役割がどうとかその場の空気がどうとか、そういった自己犠牲の精神を手放していた。
 これまでのような生き方をしていたらいつかまた、雨宮のような誰かに大切な居場所を奪われ兼ねない。そのことに、痛い目に遭ってようやく気付けた。この先は大切な人たちを守るためにも自我を捨てずある意味、我儘になっていこうと思う。

 ――そうだ。
 風香さんと“お疲れ様会”をしよう。
 遅いクリスマスパーティもいいな。

 賑やかな空間で、俺はひとり“未来”のことを考えていた。

 
 店を出てそれぞれに帰路に着いた。
 俺は会社の前を通って自宅へ戻るルートだ。
「気をつけて帰れよ」
「また来週な」
「はい! 先輩方もお気をつけて!」
 交差点で皆を見送って、俺も進行方向へ進む。スマホを取り出しすかさず風香さんにメールを送った。

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