愛を失う数時間前
※ 記事抜粋 ※
*新聞 *
【24日午後7時ごろ、宇津木市の木造二階建て住宅で火災が発生し、約700平方メートルが全焼した。当時、家には会社員の雨宮未知留さんと妻の風香さん、妹の花音さんの三人がいたが、いずれも軽症。出火原因は現在も調査中である】
【26日、同住宅の焼け跡から白骨化した遺体が発見された。遺体はこの家に住んでいた雨宮佳奈恵さんと確認され、警察は死亡の経緯を捜査している】
【さらに佳奈恵さんの遺体のそばから成人男性の遺体が発見された。警察はこの遺体が夫の雨宮慎吾さんであるとみて身元の確認を進めていたが、後日DNA鑑定により慎吾さんと特定された】
【警察は死体遺棄の疑いで息子の雨宮未知留容疑者を逮捕。慎吾さんと佳奈恵さん両名の殺害容疑でも再逮捕の方針を固めた】
【その後、消息不明となっていた雨宮未知留容疑者の妹、雨宮花音容疑者が12日、宇津木警察署に自首。「お母さんは自殺で、お父さんは私が殺した」と供述している】
*週刊誌 *
今回の『ノンフィクション・ファクター』では両親を殺害し遺体遺棄で起訴された雨宮未知留被告と花音被告の兄妹を特集する。(全回2回)
事件発覚の発端は、妹・花音によって引き起された火事だった。当時家には兄妹の関係を疑い家を出ようとしていた未知留の妻(以下Aさん)が兄妹に拘束されていた。Aさんが約束の時間を過ぎても現れなかったため、同僚や友人が心配し、警察に通報した。
警察は当初、未知留の「夫婦喧嘩が行き過ぎた」という説明を聞き入れたが、退院後、焼け跡を執拗に徘徊する姿を不審に感じ捜査を進めた。その結果、遺体が発見され事件が動き出した。
一方、火事の混乱の中、未知留が逃がした花音はどこにいたのだろうか。
「びっくりしましたよ。真冬にほぼ下着で靴も履いてなかったんですよ。慌てて私のコートを脱いで着せました」
親切な中年女性に保護されるまでの数日間について花音は未だ黙秘を続けているが、この女性に出会えたことは兄妹にとっては幸運だった。
「警察を呼ぶわね、と言ったら首を激しく横に振るんです」
会話をしようにも意思疎通が難しく、不安になって知り合いの弁護士に電話をした。
女性が頼った人物こそが刑事事件で有名な辣腕・如月弁護士だった。
さて、事件に至るまでの兄妹を追っていこう。
事件の背景には、兄妹を取り巻く複雑な家庭環境があった。
「妹さんがあのお屋敷に残っていたなんて……」
近所の住民は寝耳に水だったと言う。
「お兄ちゃんが中学生の頃、お母さんの姿が見えなくなってどうしたのかと聞いたことがあったんですよ。『母と妹は父のところで暮らすことになりました』『僕は学校があるから残りました』『親戚が面倒をみてくれることになっています』と言ってたんです。『お母さんとお嬢さんだけでも一緒に暮らせるようになって良かったわね』と伝えたんです」
父・慎吾さんには赴任先に恋人と実子がいた。その事実を知ったため未知留たち兄妹と母親は日本に残っていたのだが、近隣住民には知られていなかった。
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「まさか、殺したの?」
失踪したと思っていた母は、花音が寝ているベッドの下に押し込まれ異様な臭いを放っていた。
「自分で死んだ。でも生きてた。苦しいから殺してって言われた」
未知留が妹に会うのは一年ぶりだった。母から妹が精神を病んで部屋で暴れていると聞いていたからだ。だが実際は逆で、妹は一年以上母親から虐待を受けていた。
「ごめん、――ごめん。今までほっといて、ごめん」
痣だらけの痩せ細った妹の姿に未知留は泣き崩れた。その罪悪感が未知留に妹の犯罪に加担する選択へと向かわせた。
未知留は父に「母が失踪した」と連絡を入れている。
父は家事代行のヘルパーを手配してくれたというが、未成年の子供にそれだけの支援で適切だったのかは論ずるまでもない。
それからの兄妹は頼れる大人がいない状況下、ふたりで生きていかざるを得なかった。花音は虐待の後遺症がひどく重度の対人恐怖症で部屋から一歩も出られなかった。母親から『おまえは誰からも愛されない存在だ』『おまえが生まれなければお父さんとお兄ちゃんと三人で幸せになれたのに』と繰り返し責め立てられたことで自尊心も欠落していた。
「お兄ちゃん、花音のこと愛してる? 死んだら悲しい?」
花音は自傷行為を繰り返した。食事も未知留が口元へ運んで入れてやらなければ摂らず、身の回りの世話はすべて未知留に掛かっていた。
そんな極限状態が続いた末、親殺しと遺体遺棄という秘密の共有が兄妹を外の世界から引き離し、善悪の感覚すらも入れ替えてしまった。もがくように互いにしがみつく姿は、もはや泥の中で共に沈んでいくようだった。
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引きこもる妹の花音とは対照的に兄の未知留は完璧な学校生活、社会生活を送っていた。高校も大学も難関校を一発で通り、卒業後は高級時計メーカーに就職した。はたから見れば誰もが羨む順風満帆な人生といえよう。
職場での評判は良く、「爽やかな好青年」「優秀な人材」と称されていた。
「面接から海外勤務を希望してましたね。あのまま行けば間違いなく叶ったでしょう」
そう話すのは未知留の面接を担当した上司だ。
未知留の友人たちも口を揃えて言う。
「イイヤツだった」「事件を知ってもまだ信じられない」
だが一部の関係者からは違った評価が聞こえてくる。
「感情が読めない」「相手にする人間を選んでいた」
女性からも人気があった。
「言い寄る子には『彼女がいる』って必ず言ってました。そこがまた誠実そうで好印象でした。今思えば、彼女は妹のことだったんですからびっくりです」
ネット上に拡散された兄妹の動画はわずか5秒ほどだったが兄妹の生々しい関係を語るには十分だった。警察に証拠品として提出されたスマートフォンデータの一時紛失が原因ではないかとされているが、詳細は不明だ。
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Aさんとの結婚が父殺しのカウントダウン。
未知留は父親への入籍報告をメールで済ませている。これまで同様、言葉だけの祝福をもらい、それで終わったはずだった。だが父は予想を裏切り帰国、兄妹の関係を目撃することとなった。激昂した父は、二度と関係を持たないという誓約書を書かせ、別居を促した。
「兄と離れたくない」
花音は就寝中の父を刺殺。それを知った未知留が花音の犯行を隠蔽した。
数日後、戻ってこない慎吾さんを心配し同僚が自宅に電話を掛けている。未知留は「本当に家に戻ると言ったのか」「別の用事があり帰国する口実に使ったのではないか」と傷ついた子供を演じ、長年に渡って慎吾さんの不貞を傍観してきた同僚を黙らせることに成功している。
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いびつな結婚の結末
そもそも未知留は実妹と男女の仲にありながらなぜAさんと結婚したのか。
未知留とAさんは高校の同級生。約七年の交際を経て籍を入れた。未知留はAさんの印象を「愛に飢えた可哀想な子だった」と裁判で語っている。「愛情はなかったが情は移った」「子供を作り『幸せな家族』を持ってみたかった」と述べている。その言葉を聞いた傍聴席のAさんの立場と心情を思うと、やるせない。(※本記事は来週発売のノンフィクション・ファクター次号へと続きます。「愛とは?」「家族とは?」の問いが深まる未曾有の兄妹事件。次号もご期待ください。)
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【了】


