敵国から嫁いできた悪役王女……のつもりだったのですが、めちゃくちゃ大事にされている上に、契約結婚になるようです。
「ミゲル殿下」
私が呼びかけると、扉を仁王立ちで開いているミゲルは、ビクリと体を震わせてこちらを見た。
私と目が合うと、あっという間に顔を上気させて真っ赤になってしまう。
若草色の瞳が映えて、とっても綺麗。
……でも、これで結婚なんてできるのかしら?
「だめです」
「えっ」
「身代わりは、いやです」
ちゃんと、あなたが私を見てくれないと。
そう言った後、右目でパチンとウィンクをして、口元に指を立ててみた。
これは、メルヒオールから貸してもらった『人の魂は触れずとも動かせる』という極意本に載っていた技なのだ。心や情動を動かす数多のテクニックが記載された、メルヒオール曰く、夜にも役立つ玄人向けの本なのだとか。確かに、言葉だけで相手の気持ちを盛り上げる難易度の高い技術が大量に記されていた。一部、私のような素人では理解できない記述もあったくらいだ。
閑話休題、私のウィンクによって魂を動かされたミゲルは、案の定、声にならない悲鳴をあげてその場を走り去ってしまった。
どうやら私は秘伝の技をうまく使えたらしい。
今の見た!?と言う気持ちで私がメルヒオールを振り向くと、彼は青ざめた顔でサッと目を逸らした。
褒めてほしかったんだけど。
私の初めての友人は、やっぱり割とドライなのである。
「……とりあえず、保留で」
国王の鶴の一声で、すべては保留になった。
そして、なんだかんだ、半月が経過してしまったのである。