敵国から嫁いできた悪役王女……のつもりだったのですが、めちゃくちゃ大事にされている上に、契約結婚になるようです。


「待っていたわ、ヴィオレッタ」
「! アイリス姉さま!?」

 声はするのに、アイリス姉さまはどこにも居ない。
 いや、なんとなく嫌な予感がする。

 部屋の中心部には、仁王立ちの調度品――鎧が立っているのだ。

 アイリス姉さまの声は、そこから……。

「……姉さま?」
「さあ、ヴィオレッタ。この国から逃げるわよ!」
「え?」
「大丈夫よ。姉さまに任せてくれれば問題ないわ」
「アイリス姉さま?」
「すべて手はずを整えているの。あとは二人で逃げるだけよ。あの嘘くさい笑顔の王太子がね、追って来たとしても、私が叩き伏せてあげる」
「嘘くさい笑顔の王太子」
「そうよ。和睦のための婚約だなんて言って、あいつ、全部嘘じゃないの!!!」

 ギギギギ、と鎧が動いて、しかしその動きはまさにブリキ人形のようで、手に持った殺傷能力のなさそうな槍を動かそうとして、そのまま床にガシャリと崩れ落ちてしまった。
 「くっ……これがマグネリア王国の罠……ッ」という愛らしい声と共に、鎧が立ち上がろうと必死に床でもがいている。
 その動きはさながら、討ち果たされんとする骸骨魔人である。

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