敵国から嫁いできた悪役王女……のつもりだったのですが、めちゃくちゃ大事にされている上に、契約結婚になるようです。


「ヴィンセント王国の弓張月……」

 声の主は第四王子モーリスだ。
 第五王子マクシムのと共に、国王や王妃達と会話をしているアイリス姉さまを見て、うっとりとしている。
 そういえば、この二人はアイリス姉さまを初めて見たのか。

 美しいサラサラの金の髪。
 白磁の肌に大きな淡い水色の瞳、長いまつ毛に桜色の唇。
 ヴィンセント王国第一王妃にそっくりなアイリス姉さまは、実は、清楚系美女の頂点と言っても過言でないほど、絶世の美人なのである!

 マイケルと、久しぶりにまともな格好をしているミゲルは、アイリス姉さまの美貌に妙に無関心で、その魅力を理解していないようだけれども、末弟二人は十分にその真髄に触れることができているようだ。
 うんうん、若き二人の王子、とっても見どころがあります。
 よきかなよきかな。

「夜空に輝く月のような、繊細な美しさですね……」
「なんということだ……女性は、もちもちでなくても素晴らしい……っ」
「触れたら折れそうなほどたおやかな可憐さ……モーリス兄上、アイリス殿下の案内役は僕が務めます……」
「何を言うか……その素晴らしい役目は俺のものだ、マクシム……」
「若い弟に経験を積ませてください……」
「兄より先に経験をしようとする不届者は誅殺だ……」

「恥ずかしいからお前達は黙っていろ」

 おどろおどろしい声音に、二人の王子はビクッと体を震わせた。
 そして、声のしたほうを見て、さらに目を丸くしていた。

 そこには、ニコニコ笑っているメルヒオールがいるだけだ。

 にこやかな笑顔を浮かべる彼から、地の底から這うような先ほどの声が発生するとは思い難い。
 けれども、ここで口を開いたら、何かを失うような、そんな緊張感がある。

 私も火薬庫でダンスをする趣味はないので、それとなく口を閉ざしておいた。


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