敵国から嫁いできた悪役王女……のつもりだったのですが、めちゃくちゃ大事にされている上に、契約結婚になるようです。


 私はトランクの中から何を選ぼうかと手をさまよわせ、これに決めたと、黒い布地のそれを何枚か手に取る。ついでに、花の形が彫り込んである石鹸と、とろみのある液体の入った小瓶を二つ手に取る。
 そして、壁際に控えている侍女二人に声をかけた。

「今日はね、これを使いたいの」

 侍女二人に、石鹸と小瓶を一つ渡しながら、湯あみの準備に入る。
 持ち込んだ石鹸で体を洗い、湯につかりながら侍女達に髪を洗ってもらっていると、ほう、と嘆息するような声が聞こえた。

「どうしたの?」
「いえ……こちらの洗髪油は、とても素敵な香りがするのですね」
「ええ。アイリスの花の香りなの」
「そういえば、ヴィオレッタ様の故国では、草花を利用した加工品が流行っていらっしゃるのでしたね」
「言われてみたら、そうね。ヴィンセント王国は森に囲まれているから」
「実り豊かでよいことですね」
「閉鎖的で保守的っていうおまけが付いてくるのよ」
「ヴィオレッタ様からは、そういった面はあまり感じられませんが」
「リオナとルイーゼが話しやすいからだと思う」
「ふふ。そう言っていただけると幸いです」

 マイケルの配備してくれた侍女二人は、私の言葉にくすくすと笑っている。

 かの王太子は、親しみやすさを優先して柔らかい雰囲気の若い侍女を配置してくれたらしく、意外にも私達は仲良くやっていた。
 ここに来るまで、自我の強いおじいちゃん侍従とおばあちゃん侍女や、刺客を兼務していた護衛に囲まれていたことを思うと、なんだか胸の内がくすぐったいような、不思議な気持ちになってしまう。

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