悪役王女の数奇な嫁入り 〜契約結婚でもいいですが、そのうち後悔すると思いますよ?〜
こうしてたどりついたのは、マグネリア王国の王宮だ。
寄り道は暗い顔つきの護衛達が許さないのでしかたがない。
王宮の正門を通るとき、ふと、このマグネリア王国の正門を堂々と通ったヴィンセント王国の王族用馬車はこの馬車くらいかもしれないと思いながら、窓の外をカーテンの隙間からこっそり眺める。
「我々は、ヴィンセント王国より参った。こちら、ヴィオレッタ=フォン=ヴィンセント殿下である!」
ヴィンセント王国の護衛の兵士の一人が先ぶれの声を上げると、周りから拍手が聞こえた。
昨日泊まった宿から到着の日時を指定していたので、出迎えがいるらしい。
しかし、うちの兵士も大概である。
そんな声を上げたら、すぐさま私が馬車から出てくると皆が期待するではないか。
「よっこいしょ。アァー、やっと着いたヨォ!」
スンッと拍手が鳴り止んだのが手に取るようにわかった。
もちろん、最初に馬車を降り立ったのは、侍女のマチルダ婆ちゃんである。
今日は初めてこの王宮に来るハレの日なので、いつもに比べると着飾っている。彼女は、いじらしいところのある可愛いお婆ちゃん侍女なのだ。
私は貴賓なので、馬車の一番の上座――つまり、一番奥に座っている。
馬車から出るのは最後である。
きっと、マグネリア王国の人達は、マチルダ婆ちゃんを私だと思っているのだろう。
可哀想に。
「……ヴィ、ヴィオレッタ第三王女殿下におかれましては、ご機嫌麗しゅう……」
あ、なんだか可哀想な人達の代表っぽい人の声が聞こえる。
声が震えている。
憐れなことだ。
しかし、婆ちゃん達はめげない、負けない、気兼ねしない。
「あんらヤダァ、素敵な御人じゃぁないの! あたしがあと五十歳若けりゃ、このままお手を取りたいところなんだけどねぇ」
「マチルダさん、あんたそんなに若くなったら、消えてなくなっちまうヨォ!」
「違いねぇ! 違いねぇ!」
「おやまぁ、マチルダさんの言うとおり、本当にいい男! オホホ、目の前を失礼いたしますわね」
「おいおい、この人、王子サマを見て色気付いてるぞ」
「ほら、出てった出てった。後ろがつかえとる」
五人の使用人達が出た後、王宮入り口は静まり返っていた。