敵国から嫁いできた悪役王女……のつもりだったのですが、めちゃくちゃ大事にされている上に、契約結婚になるようです。


 ハッと私は顔を上げる。
 先ほど、マイケルとアイリス姉さまは仲睦まじくしていた。
 もしかして、そういうこともあるのだろうか。

 ドッと冷や汗があふれてくる。

 どくどくと波打つ鼓動が、気持ちが悪くてしょうがない。

(アイリス姉さまが、恋? マグネリア王国の人に。……王子に? でも、そんな……)

 ぐらぐらと地面が揺れているような気がする。
 アイリス姉さまが、マグネリア王国の男性に、王国の王子に、恋をしたとしたら。
 この国に嫁ぐことがアイリス姉様の幸せなのだとしたら――。


 私は一体どうしたらいいのだろう。


 この婚姻は、マイケルが企てたものだ。
 その目的は、マグネリア王国とヴィンセント王国の友好。
 だとしたら、嫁ぐ王女は一人でいいはずだ。

 ヴィンセント王国第二王妃ミラベルは、王太子である第一王女アイリスをマグネリア王国に嫁がせることを推していた。
 第一王女アイリスが隣国に嫁ぐことを望まず、呪われた第三王女ヴィオレッタが身代わりを望み、国王ヴィルクリフが強く後押ししたから、第三王女の輿入れが決まった。

 けれども、第一王女アイリスが隣国への輿入れに乗り気になったら?

(私、じゃない。私じゃなくなる。私じゃ、なくなったら)

 アイリス姉さまがマグネリア王国に嫁ぐことになったら、きっと第二王妃ミラベルは喜ぶことだろう。

 ヴィンセント国王ヴィルクリフは、どうだろうか。
 憎い第三王女を国から出すことと、第二王妃ミラベルの要望を通すこと、どちらを取るのだろう。
 アイリス姉さまが拒絶したことによって、『第三王女の輿入れ』に傾いていた国王ヴィルクリフの天秤は、どちらに傾くのだ。

(……いえ、大丈夫。アイリス姉さまが他の国で幸せな結婚をすることを、あの人は望まないはず)

 国王ヴィルクリフの第一王妃クリスタに対する執念と執着と怨念が、ほとんど第二王妃ミラベルの支配下にあるといっても過言ではないヴィンセント王国の政治的勢力図の中で、第一王妃の長女アイリスの王太子という地位を存続させていたのだ。
 あの国王の、アイリス姉さまへの執着は、尋常ではない。
 現在、アイリス姉さまがこの国に来ていること自体が、国王の癇に障っているはず。

 だから、アイリス姉さまがマグネリア王国に嫁いで、ずっとこの国にいるなんて。
 まさか、そんな。

(相手がメルヒーだったら、マグネリア王国第三王子メルヒオールが、ヴィンセント王国王太子アイリスに婿入りすればいい。ミゲル殿下でも、そう。だけど……)

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