敵国から嫁いできた悪役王女……のつもりだったのですが、めちゃくちゃ大事にされている上に、契約結婚になるようです。


 どうしよう。
 相手がマイケル=ミゼル=マグネリアだったら、私はどうしたらいいのだろう。

 王太子同士の婚約。
 両方が王太子の地位を維持できるはずはなく、両国の政情を考えると、どう考えてもアイリス姉さまが王太子を降りてこの国に嫁ぐことになってしまう。

 そうしたら、私は、マグネリア王国に返されることになってしまう。文字どおりの返品だ。


 そして、アイリス姉さまの居ないヴィンセント王国で、私はなんの使命もなくアイリス姉さまと離れて、生涯を終えるのだ。


 血の気が引いて、思考がまとまらない。

(国王に、あの人に、働きかければ)

 国王ヴィルクリフに働きかければ、おそらく激高しながらアイリス姉さまの輿入れを阻止してくれるはずだ。

 そう思う一方で、私の中の良心が囁く。

 けれどもそうしたら、アイリス姉さまの気持ちは?

 第一王妃と私の母(あの自分勝手な人達)の存在を利用して、アイリス姉さまの心を、これ以上くじいてしまっていいのか。


(…………………………………………………………)


 このままでは、私はアイリス姉さまにとって必要のない女になってしまう。


 それを根本的に覆さないと事態は解決しない。

 事態は解決させなければならないのだ。
 アイリス姉さまの視界を、思考を、あの淡い水色の瞳を、私のことで一色に染め上げなければならないのだ。
 そうしないと私に生きている意味などかけらもなくて、アイリス姉さまのひとみのなかにうつるのはいつだってわたしだけでよくて、わたしいがいのひとがいっぱいうつってわたしのすぺえすがぜんぶなくなってわたしのことをぜんぶわすれてアイリスねえさまがしあわせになってしまったらわたしをこのせかいにひつようとしてくれるひとはだれもいなくて――。

(だめだめだめだめだめだめだめだめだめだめゆるさないぜったいゆるさないぜったいゆるさないぜったいにゆるさないぜったいに)

 どうすればいい。

 なにから壊してしまえばいいの。

 わたしが、わたしでいるために。

 アイリスねえさまのいちばんでいるためにはどうしたら。


 ――アイリスねえさまのこころを、こおらせて、シマエバ。



『君は、アイリス殿下が大好きなんだね』



「……マイク」

 ふと気がつくと、私は王宮の室内にいた。
 どうやら思考に耽るあまり、無我夢中でテラス席から立ち上がり、侍従侍女達を撒いた上で、王太子マイケルの寝室に入り込んでしまったらしい。

 しばらくその場で立ち尽くした後、ゆっくりと息を吸った私は、周りを見渡す。
 やはり、どう見てもここはマイケルの寝室だ。
 先日、猫の姿で侵入したときと、基本的には変わりがない。

 ただ、一箇所だけ、見覚えのない光景が広がる場所がある。

「マイケルのやつ! マイケルのやつ! 呪ってやる。呪ってやる〜!!!!」

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