敵国から嫁いできた悪役王女……のつもりだったのですが、めちゃくちゃ大事にされている上に、契約結婚になるようです。


 寝室の片隅に置かれた、簡単な物書きをする机の上だ。
 本が薙ぎ倒され、机上には、本の間に挟まれていたと思しき魔法画(マギグラフィー)が散乱している。
 魔法画(マギグラフィー)に写っているのは、黒髪に紫色の瞳の肉付きのいい女――どうやら私のようだ。撮られた覚えはないのだけれども、隠し撮りだろうか。どうにもきわどい角度が多い気がする。

 そして、その魔法画を踏みつけにしながら、万年筆サイズのご令嬢が、ワラ人形をどすどす殴りつけていた。

(……?)

 私の存在に気が付くことなく、不穏な発言を繰り返しながら、本の背表紙を壁に延々ワラ人形を痛めつけるご令嬢。

 殴られているワラ人形からは、金色の髪の毛が何本か飛び出ている。
 誰の髪の毛だろう。

 マイケルの毛?
 
「……」

 私が無言で机に近づき、右手でご令嬢を掴みあげると、万年筆令嬢はギョッと目を剥いて私を見た。
 深い青色の瞳と、紫色の瞳が交差する。

「……」
「……」

 右手の中の温かい感触と重みが、無言で必死にもがいている。

 しかし、こちらは人間サイズ、向こうは万年筆サイズだ。
 その絶対的な力の差を、気持ちだけで埋めることができようか。
 ……ご令嬢は、できると思っているご様子だ。
 …………そんなことが、本当に、できようか?

 まるでチキチキと爪を立てるハムスターのようだ。

 なんだか、笑いがこみあげてくる。

 この無駄な抵抗を眺めていると、自分を取り戻していくような、そんな心地がする。

「……」
「……はなしてよ」
「……」
「はなして。はなしてよー!」

 とくんと、心臓が波打つ。
 この感情をなんと言ったらいいのだろう。

 ああ、そうか。

 これが――。

「加虐心(純愛)……」
「喋ったと思ったら急に怖い!!!」
「あなたは何をしにここに居るの?」
「それは私があなたに聞きたいことよ!」
「お互いに聞きたいのですね。いえ、わかっています。あなたの正体について、私は既に理解しています」
「じゃあなんで聞いたのよ!?」
「様式美というやつです。それでは、正解を述べますね」

 わたしはゆったりと、赤いルージュを引いた唇を弓なりに曲げる。

「――暗殺者、ですよね……」

「ちがうわよ!!!!!!」

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