悪役王女の数奇な嫁入り 〜契約結婚でもいいですが、そのうち後悔すると思いますよ?〜
「……あなた」
木にもたれかかっていた私は、ゆっくりと顔を上げて声のしたほうを眺めた。
ガリガリに痩せ細りながら庭の隅で固まっていた私に声をかけたのは、金髪碧眼の小さな女の子だった。
いや、私のほうが小さいのだから、小さな女の子と言っては失礼だろう。
けれども、その当時の私には鏡を見るという習慣がなくて、だから比較対象は視界に入る大人達しかいなかったから、その三分の二ほどしか背丈のない彼女はやはり、『小さな女の子』でしかなかったのだ。
歳の頃は、十歳を過ぎた頃合いだろうか。
キラキラしたまぶしい服を着た彼女は、たった一人で私の前で仁王立ちしていた。
私を見た後、にわかに青ざめ、手が震えているような気がする。
「あなた、こんなところで、何をしているの」
聞かれた言葉に、私は答えなかった。
そう言った彼女が、とても綺麗だったからだ。
私の視界の中で一番綺麗なのはこの子だなあと、ぼんやりと眺めるのに忙しくて、答えを返す暇がなかったのだ。
そうして私が黙っていると、その子は怒ったような顔で、「何をしているのって、聞いてるの!」と叫んだ。
これは答えを返さなければならない流れか。
「……わ……」
私は、と言おうとして、喉が絡んで咳き込んでしまう。
そういえば、私はずいぶんと長い間、声を発するということをしてこなかったかもしれない。
何度か話をしようとし、けほけほ咳き込む私に、その小さな女の子はさらに青ざめていた。
「も、もういいわよ! こちらに来なさい!」