敵国から嫁いできた悪役王女……のつもりだったのですが、めちゃくちゃ大事にされている上に、契約結婚になるようです。
私がまっすぐに彼の目を見ると、その碧色の瞳に、わたしの紫色の瞳が映っている。
マイケルは軽く目を見開いた後、思わずと言った様子で頬を緩めた。
「それは、なぜ私が彼らを追い払ったのか、ということですか?」
「……」
「それとも、なぜ彼らがあなたを害しようとしていることに気が付いたのか、ということでしょうか」
護衛達は、私を害しようとしていた。
多分、初めに私室に案内されたとき、一人でしばらくゆっくりしていたら、私はその隙に彼らに殺されていたのだろうと思う。
隣国の第三王女が無事に王宮に到着したという安心感と、出迎えの準備をしなければならないという焦りで、あからさまに王宮内の者達は油断していた。その隙に、女一人を仕留めることなど用意容易であっただろう。
マグネリア王国の王宮内に、ヴィンセント王国の第三王女の遺体が一つ。
間違いなく、マグネリア王国は、遠路はるばる嫁ぐためにやってきた王女を暗殺したという汚名を被る。
要するに、戦争の始まりである。
しかし、マイケルは私を私室に案内した後、私からひと時も離れず、そのまま応接室に連れ去った。
それ以降も、マイケルが信用する使用人に私を預けるまで、常に傍に居て私に気を配っていた。
それだけなら、戦争を避けただけ、という理由で終わりだったのだけれども。
「……なぜ、優しくするの?」
私の質問に、彼はなぜかとても楽しそうにしていた。
「遠くから来てくれたお嫁さんを大切にするのは、普通のことでは?」
答えない私に、マイケルは穏やかな笑みを浮かべたまま、私の右手をとり、そっとキスをするフリをした。
「おやすみなさい。僕達の大切なお嫁さん」
それだけ言うと、彼は私の部屋を去っていった。
私は、彼に取られた自分の右手を眺めながら、不思議な気持ちで胸がいっぱいになっていた。
言葉にしがたいこの想いは、一体何なのだろう。
それにだ。
「私、誰と結婚するんだろう」
私はまだ、私の結婚相手が五人の王子のうち誰なのか、誰からも聞いていない。