敵国から嫁いできた悪役王女……のつもりだったのですが、めちゃくちゃ大事にされている上に、契約結婚になるようです。
何度も言うが、私は黒髪に紫色の瞳。
それに加えて、今日は自国から持参したたいしたことのない真っ黒なデイドレスを身にまとっている。
私の雀の涙ほどしかない予算で作った、三着しかないまともな貴族服のうちの一枚だ。
ちなみに色は、全部黒。
黒は汚れもほころびも目立ちにくい素晴らしい色である。
黒髪長髪の色白の貴族の女が、真っ黒なデイドレスを着て、黒装束ミゲルに負けず劣らず、華やかな庭園の一角を黒く汚している。
私に言われるのは、心外。さもありなん。
「兄上が用意した服はどうしたのです」
「入りませんでした」
「……それは、失礼いたしました」
私が自分の体を見ながらそう言うと、ミゲルは顔を赤らめ、サッと目を逸らしたので、おやと首をかしげる。
どうやらこの二十歳の青年は、勝気でプライドが高そうな顔つきに反して、この手のことには奥手らしい。
私が不思議そうに彼を見ていると、ミゲルは咳ばらいをし、勝手に私の目の前の席についた。
それとなく遠くに居た侍女がやってきて、ミゲルにカップを差し出し、紅茶を注いで去っていく。
席をどうぞなんて言った覚えはないのだけれども、相手はこの国の王子だし、私に選択権はないということなのだろう。
「兄上はどちらに?」
「あちらです」
私は、王宮の三階にある応接室の窓の方に、チラリと視線を投げる。
そこには、貴族や商人達に囲まれたマイケルの姿があった。
会議をしていると聞いているが、皆、表情はなごやかで、友達と話をしているような雰囲気が見て取れる。
「またですか。本当に、よく根気が続くなあ」
思わず口元をほころばせるミゲル第二王子に、私は前々から、というか一週間前から思っていたことを告げる。
「ミゲル殿下は、どうしてマイケル殿下のことが大スキなんですか?」
「ゲッホゲホゲホゲホ」
ミゲルはせき込んだ。
熱い紅茶をむせるほどの勢いで飲み込むとは、第二王子は舌も食道も鋼鉄でできているのだろうか。