敵国から嫁いできた悪役王女……のつもりだったのですが、めちゃくちゃ大事にされている上に、契約結婚になるようです。
「ええと。本当に、急にどうされました?」
「マイケル殿下と面と向かってお話をしたかったのです」
「ですから、日中でも」
「ここなら、誰の目も気にする必要はありませんよ」
ぴくりと強張った顔に、私は自然と頬が緩んでしまう。
昼日中ではだめなのだ。
太陽の下、使用人達が居るようなその場所では、この男の仮面は剥がれない。
もっと油断を誘い、じっくり揺さぶり、隙をつかなければ。
「マイケル殿下。国と国との溝を埋めるため、この婚姻を提案したのは、あなた様でしたね」
「そうですね」
「普通に考えれば、私の婚約者となるべきは、あなた様であるはず。ですが、この一週間、誰も私に婚約者が誰なのか、教えてくれませんでした」
まあ、マイケルは王太子だ。
敵国の王女を妻に据え、ひいては王妃にするというのは、国として許容しがたいという考え方もあるだろう。
とはいえ、その懸念があるのであれば、まずは私にそういった説明があるはずだ。
けれども、この一週間、誰しもが、私の婚約者が誰であるのかという話題に触れようとしなかった。
わざわざ、遠方から嫁いできた王女に、相手を伝えない。
「それはなぜですか?」
上目遣いに尋ねると、マイケルは降参したと言わんばかりにため息を吐いた。
「そうですね。あなたには最初から説明しておくべきでした」
「と、いいますと?」
「結婚するなら、あなたと一番相性のいい王子が結婚したほうがいいと考えていたのですよ。ただ、好きな王子を選んでくれと言うのも、あまりにあけすけすぎるかなと思いまして、なかなかお伝えしづらかったのです」
意外な返事に、私が紫色の瞳をぱちぱち瞬くと、マイケルは肩を落として説明し始めた。