敵国から嫁いできた悪役王女……のつもりだったのですが、めちゃくちゃ大事にされている上に、契約結婚になるようです。
「あなたは、遥々やってきてくれた可愛い僕達のお嫁さんです」
「……」
「大切にしたいと思っています。ですから、あなたの夫となる人物についても、勝手に僕達が決めるのではなく、あなたと心を通わせた王子が居れば、そちらを優先しようと考えていました」
「……僕?」
「!?」
ハッとした顔でこちらを見たマイケルは、慌てたように目を彷徨わせ、顔を真っ赤にして口元を押さえていた。
どうやらこの男、「私」が外向けで、「僕」と言うのが素らしい。
うん、いい感じにボロが出始めている。
ちなみに、「忘れてください」と言うけれども、これを聞いたのは三回目である。
そして、この表情がセットである。
しかも、聞いたのは私だ。
残念だが、一生忘れることはないだろう。
「それで、私と他の王子が仲よくならない場合はどうするおつもりだったのですか?」
「……実際、どうなのですか? 弟のメルヒオールと仲がいいと聞いています。確か同じ年でしたよね」
「ああ。彼は私と趣味が似ていたので、少し話が合っただけです」
「彼と婚約しますか?」
「メルヒーには他に好きな人が居ますよ」
「!? そ、そうなんですか!?」
「メルヒーだけでなく、私は、あなたの弟と想いあうような関係にはならないと思います」
「……そうですか」
「どうしましょうか」
彼は少し考えるようにして俯くと、一度頷き、真剣な顔をして私に向き直った。
アイリス姉さまと同じ色を持つ、金髪碧眼の王子様。
その顔つきまでがアイリス姉さまに似ていたので、私は居住まいを正す。
そう、アイリス姉さまに似ているのだ。
ろくなことを言い出さないときの、アイリス姉さまに。
「あなたが弟達の誰かを選ばないのであれば、自動的にあなたの夫は私に決まります」
「そうですか」
「私はあなたを、幸せにしたいと思っています。あなたは、私のわがままを呑んで、この国まで来てくださった尊い女性だ。だから、女性として幸せになる権利があってしかるべきだと思うのです」
言葉を選ぶようにして話をするその声は、とても優しい。
そういうところも、アイリス姉さまに似ている。
だから、私は少し気を抜いてしまったのだ。
「ですから、私達の結婚は、形ばかりのもの――契約上の結婚としましょう」
「ゲッホゲホゲホゲホ」
「だ、大丈夫ですか!?」
「すみません、喉に何か絡んだみたいで。ええと、何か大変なことをおっしゃったような」
「私達の結婚は契約結婚にしましょう」
こ、こいつ、二回も言ったぞ。