敵国から嫁いできた悪役王女……のつもりだったのですが、めちゃくちゃ大事にされている上に、契約結婚になるようです。
ガウンの下から現れたのは、服の定義について考えざるを得ない透過性の高いナイトウェアに身を包んだ、乙女の肢体である。
豊満な体つきにぽってりした唇が特徴的な、悪魔のような女の体だけれども。
その姿を見た途端、目の前の金髪碧眼の王子さまは目を見開いて石のように固まった。
若干頬が赤らんでいるけれども、目をそらすこともなく、嫌悪の感情も読み取れない。
うん、まあ、悪くない。足止めは成功である。
あの愚兄エクバルトも、本命にするにはだらしがないけれども、男にこびた体つきだと言っていた。
だから、よくわからないけれども、きっとこれはそこそこに効果を発揮してくれているということなのだろう。
「マイケル殿下は、わたくしの心の赴くままにしてよいとおっしゃるのですね」
「えっ!? あの、いえ! そうですね!?」
「得たい男を、手にしてよいと」
「そのとおりですが、ガウンを着てください」
「もっと見てもよいのですよ。私が欲しいのは、あなたですから」
おりこうさんな顔で固まった王子さまに、私はにっこりと微笑みながら、その左腕にしなだれかかる。
アイリス姉さま御用達の『この世界を作ってきた歴史ある技術』に掲載されていた技その二である。
とはいえ実は、いつもアイリス姉さまでやっていたから簡単なことだ。
その腕に絡みついて逃げられないようにしつつ、体重を載せながら耳元で囁くと、アイリス姉さまは「なんでもするから離れなさい!」と、だいたいのおねだりを聞いてくれるのだ。
便利な技である。
「わたくしに、あなたをください」
「ヴィ、ヴィオレッタ様……!?」
「どうか、ヴィオレッタと」
「……こんなことをしてはいけません。こういうことは、心が通い合った者同士で」
「あなたは私の婚約者なのだから、いいではありませんか。心は後から通わせればよいのです。わたくしのことがお嫌いですか?」
「そのようなことは!」
「では、問題ありませんね」
「わ、私では、だめです!」
「だめ、とは?」
「……っ、わ、私は……」
「はい」
「私では、きっと、あなたを幸せにできません……」
顔を真っ赤にしたマイケルは、ハッと我に返ったような顔で目をさまよわせ、私の顔色を窺う。
私は、心がトクンと高鳴るのを感じた。
見つけた。
これが、獲物だ。
私の、私だけの、面白いもの。
みんなが褒め称える王太子、マイケル=ミゼル=マグネリアの弱点。
「一人を、幸せにすることができない?」
サッと青ざめた顔をしたマイケルに、私はぺろりと厚い唇をなめる。