敵国から嫁いできた悪役王女……のつもりだったのですが、めちゃくちゃ大事にされている上に、契約結婚になるようです。
「みんなを幸せにするために奔走している、王子さま。この一週間、私に話しかけてきた人は、みんながあなたに感謝していました」
「そう、ですか」
「はい。みんな、あなたのやってきたことを、自分の手柄のように語っていました。けれども、あなたがどんな人で、何をしたくて、どうして生きているのか。誰も知らないのです」
だんだんと白い顔になっていくその綺麗な顔に、私はただ、ああ、可哀そうだなと思う。
みんなの幸せのために動いているのに、みんなに褒められて、みんなに共有されて、みんなに必要とされながらも、必要とされない、可哀そうな王子様。
だから言いたくなくて、でも、言いたかったのだ。
その碧い瞳が濁るところを、私は見たかった。
それは、アイリス姉さまと同じ色だから。
「あなたは、みんなの幸せな顔を見るのが好きなのですよね。誰かの輪の中に居るときが一番輝いていて、その人数が多ければ多いほど、あなたは心から安心する」
「それは、もちろんです。それの何がいけないのです」
「だけど、一人の人間にも愛されたいと思っている。自分はその人に、時間を割くつもりがないのに」
「……何が言いたい」
「『みんなと私と、どちらが大切なの?』」
カッとした顔をしたマイケルは、その数瞬後に、我に返ったように息を呑み、そして、両手で顔を覆ってうなだれた。
『感謝』『信頼』『好意』を、きっと国で一番集めている王子さま。
けれどもそれは、家族の外に居る人に対する感情なのだ。
彼自身の内面に興味を持った上でのものではない。
可哀そうな王子さまは八方美人で、色んな人に好かれているけれども、向けられた好意は、とてつもなく軽い。
だから、彼は心の中で、愛を求めている。
夫婦として、家族として、自分をただ求めてくれる相手を欲している。
そして可哀そうなことに、彼は頭が良すぎるのだ。
自分を欲する相手を大切にできない己を、知ってしまっている。
そう、マイケル=ミゼル=マグネリアは、強くて、美しくて、とてもよわい。
私のアイリス姉さまと、同じように。
数分、動かなかった彼は、長く息を吐くと、ようやく顔を上げて私を見た。
「あなたは一体、私を怒らせて、何がしたいのです」
「あなたの望みを、かなえて差し上げます」
「え?」
「先ほども言ったでしょう? 私は、あなたが欲しいのです」
心の鎧が外れたまま狼狽えている彼に、私はどうしようもなく心が弾み、どうすればこれをもっと面白くできるのか思考が巡らせる。
とりあえず彼の左腕を私の胸に沈ませながら、右腕を絡ませ、彼の左手に私の左手を添えて、こちらも絡ませてみた。『この世界を作ってきた歴史ある技術』その三だ。
絶対に逃がさないという私の意思を受け取ったのか、マイケルは言葉もなく震えている。