私の運命の人
夏休みになると、天文部の最後の合宿に出かける。
行き先は毎年決まって、星空がきれいな長野県と山梨県との県境にある八ヶ岳。
ペンションを貸し切って二泊三日し、昼は天文学の勉強や学園祭で披露するプラネタリウムの作成、夜はもちろん天体観測をすることになっている。
一年生の時に初めて合宿に行ったあと、私があまりにも星がきれいだったと力説したことで弓道部の広香も天文部を兼部すると言い出し、今回の合宿にも参加していた。

「はあ、涼しい! 空気が美味しい! 私の身体が若返るー」

バスを降りると大きな声で両手を上げる広香に苦笑いしつつ、私も隣で深呼吸する。
東京のじめじめした暑さが嘘のように空気がひんやりと澄んでいて気持ち良かった。

「じゃあみんな、各自部屋に荷物を置いたら外に出て。バーベキューするわよー」

兼部なのに部長も務める広香に、皆で「はーい」と返事をする。
ペンションの人が用意してくれた新鮮な野菜とお肉を、わいわいとおしゃべりしながら焼いては食べ、食べては笑う。
楽しいひとときはあっという間だった。
大広間に集まり、一年生に天文学やプラネタリウムの作り方を説明しているうちに夕暮れ時となる。
早めに夕食を済ませると、少し離れた広場に歩いて向かい、望遠鏡を並べて天体観測の準備をした。

「お天気に恵まれたわね。雲もほぼないし、これならバッチリ見られそう」
「うん、そうだね。楽しみ」

広香に笑顔で頷いてから、私は空を見上げた。
まず目に映るのは、肉眼でもその瞬きがきれいに見られる夏の大三角。
いっくんの言葉が心に蘇る。

『こと座のベガと、わし座のアルタイル、それからはくちょう座のデネブ。ベガは織姫、アルタイルは彦星なんだよ』

そう言われた時、おとぎ話のようなことが本当にあるの?と驚いた。

『本当にあるよ、とても遠くにね。アルタイルは十七光年離れていて、十七年前の光が今ようやく僕たちの目に届いている。ベガは二十五年前の光、デネブは千四百年前に放たれた光なんだ』

いっくんのその言葉が教えてくれた。
この世はなんと美しくて、神秘的で、すてきな世界なのだろうと。

『あの星から見たら人間の一生なんてほんの一瞬。そんな中で僕がゆりちゃんと出会えたことは、ものすごい奇跡なんだ』

その夜のことが忘れられず、私は天文部に入った。
そして毎年夏になると夜空を見上げて思い出す。

(いっくん、今年もきれいに見えたよ、夏の大三角と天の川。北極星も北斗七星も、カシオペア座もさそり座もいて座も。いつかまた、あなたに会えたらいいな)

その時一段と星がきれいに瞬いたあと、スーッと夜空に流れて消えた。

「あっ、流れ星!」

誰かが声を上げる。

「願いごとしなきゃ」
「叶うかな?」

私は煌めく星たちを見ながら、小さく「叶うといいな」と呟いた。
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