私の運命の人
ペンションに帰ると、順番にお風呂に入って部屋に戻る。
私は四人部屋で、二段ベッドの下の段に横になった。

「ねえ、優里。起きてる?」

しばらくすると上の段から広香が小さく尋ねてきた。
反対側の二段ベッドでは、二年生の二人が静かな寝息を立てている。

「うん、起きてるよ」

私も小さく返事をした。

「窓の外、見て。流星群」
「え? ほんとだ」

ペンションの二階の部屋は四角い天窓があり、そこから空が少し見える。
目を凝らすといくつもの星が瞬いては流れていた。

「きれいね。今私はこの世にいるのかって疑いたくなるくらい」
「ふふっ、そうだね」
「優里に感化されて天文部に入ってよかった。ね、優里はいつ星に興味を持ったの?」
「ん? えっとね、五歳の時」

ためらいつつそう口にする。
いっくんとの思い出を誰かに話すのはこれが最初だった。

「へえ、なにかきっかけでもあったの?」
「うん、ある人に教えてもらったの。星座とか、光年のこととか」
「五歳の優里に天文学を? なかなかだね、その人。どんな人?」
「んー、五歳の私に真っ直ぐ接してくれた、唯一の大人の人」

え?と言って広香が身体を起こし、下の段にいる私の顔を覗き込んだ。

「それって、男の人?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ優里の運命の人じゃない!」
「違うと思う。だってそれっ切りもう会えなくなったから。今どこで何してるかもわからないし」
「でもやっぱり運命の人だよ。私、ようやく納得した。優里、これまで恋愛に対して迷いとか悩みとかあったでしょ? それ全部、その人のせいだよ」

声が大きくなる広香に、私は隣のベッドを気にして「しーっ」と人差し指を立てる。

「あっ、ごめん。でもさ、絶対そうだよ。友和先輩のことを好きになり切れなかったのも、理想の相手を訊かれて年上の人って答えたのも、優里が潜在意識の中でずっとその人のことを考えてたからじゃない?」
「それはないと思う。だって現実的じゃないんだもん。いつか会えたらいいなとは思うけど、ほぼ可能性はないし」
「今の時代はネットがあるじゃない。検索してみた? 名前とか年齢は?」
「埼玉に住んでた人で、名字しか知らない。年齢もわかんない。私が五歳の時にその人は社会人だったから、今はもう三十代後半とか? 私と二十歳くらい離れてると思う」

そう言うと広香は「うっ……」と怯んだ。

「そ、そっか。なかなかおじさんだな。うーん、それはやっぱり十七歳の女子高生にとって運命の人とは言えないかも」
「だよね。私も記憶の中で美化しちゃってるだけなのかな」
「まあ、そうね。それはそれでいい思い出じゃない」
「うん、私にとって大切な思い出。ずっと忘れたくない」
「そうね。でもそれはまたそれで、今十七歳の優里にとっての運命の人が見つかるといいね」

私はすぐには頷けず、けれどどう答えていいかもわからないまま、結局「そうだね」と頷いた。
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