気難しい売れっ子作家の契約妻になりました 〜私にだけは、心を開いているそうですが……?〜
「おはよう。夏川」
B4サイズのシフト表をロッカーから外すと、コピー機で人数分刷る。これは、誰がやってもいい仕事だけれど、なんとなく新人がやることになっている。入社四年目とはいえ最年少の私は、今でも率先してコピーしている。
印刷をしていると、背後から声をかけられて振り返る。黒の刈り上げた短髪に、小麦色の肌をして、笑うと白い歯が見える爽やかなこの人は、秋山寛さん。集配部の長である。集配部には、ベテランな従業員が多い中、二十代後半で集配部の長になった、かなりのやり手だ。
「おはようございます。秋山さん」
軽く挨拶をして、コピー機に視線を戻せば隣に立つ。秋山さんは、集配部のまとめ役で気さくな良い人。そう、良い人には間違いないのだけれど。
「悪いな。また、冬田さんのとこの集荷を割り当てて」
「い、いえ。大丈夫です」
私の身長は百五十七センチ。秋山さんは私の頭ひとつ分くらい大きいから多分、百七十センチ後半から百八十センチくらいある。私と話す時は目を合わすために腰を屈める。
だけど、それだとーー顔がとても近い。私が入社した時から秋山さんのことはずっと知っているけれど、未だにこの距離感に慣れなくて声が上ずる。
私は、あまり男の人が得意ではない。仕事だから、そんなこと言ってられないのだけれど。
そもそも、秋山さんはそう言うけれど、私は冬田さん――『涼田 冬太先生』のことを、それほど気難しい人だとは思っていない。
むしろ、初めて会ったあの日から――。