気難しい売れっ子作家の契約妻になりました 〜私にだけは、心を開いているそうですが……?〜
「どうしたんですか」
「す、すみません! 仕事中なのに……!」
当然、私がいけないのはもちろん、先生はきっと原稿を仕上げたばかりで眠たいに決まっている。だから、眼鏡をかけてスウェットなのだ。先生の時間は、私なんかが無駄にしていいものじゃない。私がこうやって話をすることで一秒でも時間を無駄にするわけにはいかない。
「……別に」
「へ……?」
「俺は気にしてません。それより、本当に読切から読んだんですか?」
私が切り上げようとした話を、先生の方が続けるから驚いて瞬きが増える。
「はいっ。初めて読んだ時、すっごくわくわくして……! 読み進める手を止められなくてっ。あと、もう一回読もうと思って、何度も読み直して……あっ、それにっ。あの時の週刊誌、今も持ってますっ」
あの時の衝撃は、今も忘れられない。十一歳だったあの頃から、ずっとそう思っていた。
「もう、十年以上も前なのに……ですか?」
「はい。もう十一年前なのに、です」
それくらい、私にとって『涼田 冬太』とは偉大なのである。先生への気持ちをまた熱弁すると、さすがの先生も口を閉ざす。ハッとして、深々と頭を下げた。
「……そういう人、初めてです」
「えっ! まさか。先生の作品が大好きな人なんてこの日本中にいっぱいいますよ……!」
だって、大人気の先生だから。そう付け足す前に彼はくすりと小さく笑った。