運命? いいえ、私が恋を狩る
◆

 ランリンが帰宅すると、使用人たちが行き交い、紅い布で包まれた木箱が、いくつも客間へ運ばれているところだった。

「……なんの騒ぎ?」

 客間の真ん中には、使者が立っていた。贈り物の帳簿を読み上げる声は、晴れやかに響く。
「シェン家より、結納品をお届けにあがりました! 金100両、絹10反、香油、薬材……」

 ランリンは結納品を眺めながら、狐につままれたような顔をしていた。
(誰が結婚するのかしら……?)

 そのとき、ランリンの父――スー・イェミンが、奥の間から悠々と姿を現した。彼は、いつものむすっとした商談顔ではなく、上機嫌に口元をゆるめている。
「おお、ちょうどよかったな、ランリン。今夜の宴には顔を出せ」

「父さん、これはなに?」

「御史中丞《ぎょしちゅうじょう》※のシェン家からだ。あちらのご子息、グイホン殿とお前の縁談が整った。めでたいことだ」 [※御史台(官吏を監督し、取り締まる機関)の次官]

 それからイェミンは、ニヤつきながら「グイホン殿はな……お前が市場で商人とやり合っているところを見て、いたく気に入られたそうだ」と言った。

 一瞬で、ランリンの全身の血の気が引いた。
「また、なんでもかんでも勝手に決めて! いつもそう……!」

「うちは商家だぞ? 立場を高めなければならん」

「ただの見栄っぱりでしょ! 貴族のシェン家とつながれば、組合でいい顔できるものね。私は値段も品物も、自分で見て決めてるの! 私の人生まで、父さんに決められる筋合いはないわ!」

「なんて娘だ……親に逆らうとは。だが、今さら覆せんぞ。嫁げ」

 ランリンは深呼吸して、必死で怒りを落ち着けた。それから、唇の端をゆっくりと吊り上げて言った。
「――私、玉擲《ぎょくてき》の儀を行なうわ」

 突拍子もない娘の言葉に、イェミンは絶句していた。


 玉擲《ぎょくてき》の儀。

 それは、結婚のための古い儀式だ。女が楼《ろう》に立ち、楼の下へ繍球《しゅうきゅう》※を投げる。その繍球を受け取った男と、結婚するというものだ。ランリンのいる都では、さらに目隠しをすることになっている。 [※刺繍がされた美しい鞠]

 神事《しんじ》として重んじられているため、その決定には誰も逆らえない。


「ランリン、お前……」

 ランリンはニヤリとした。
「神が結んだ縁なら、父さんも文句は言えないでしょう?」
(父さんが私の結婚相手を決めるなら、自分で選び直す。――私の欲しい男を)
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