愛なんて要らないはずでした~逃げるために嫁いだのに、心まで奪われています~
「キーラ。待っていたよ、さぁ、早く座って」
「はい、お父さ……、ッ」
 長テーブルの奥、家長の席である主席に父が座っている。そこまでは良かったのだが、何故か当主の妻たる継母が座るべき左側の席が空いていたのだ。

 その事実に戸惑い視線を泳がすと、困ったように継母が眉尻を下げる。
(父が座らせなかったってこと?)

 そんなマナー違反あり得ない。彼女は確かに今日来たばかりではあるが、れっきとした女主人なのだ。
 だが父が私に促すのはその女主人の席であり、既に銀製のカラトリーが並べられている。どうしたものか、と立ち尽くしていると、私の戸惑いを察したのか継母がにこりと笑みを浮かべた。

「今まで女主人の仕事をこなしてくれてありがとう、キーラ。明日からは手伝うから、今日はそこに座ってね」
「あ、はい……」
 父が既に何か言っていたのか、それとも現状の実務を私がこなしていることで、当主の代わりをしていたからと割り切ったのか、そう優しく席に促される。

 決して気分がいいものではなかったはずだが、私のためにそうしてくれたのだろう。
(できた人だわ)
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