愛なんて要らないはずでした~逃げるために嫁いだのに、心まで奪われています~
 私はこの死の森が、私を守る唯一の場所だとそう考えたのである。

「嫁ぐ人間が代わっても、問題はありませんか」
 迎えに来てくれていた御者へとそう声をかける。御者というには服の上からでもわかるその屈強な肉体に、おそらく護衛も兼ねているのだろうと思った。
 その男性は、にこやかに微笑んで頷く。

「ヴィス様──じゃなくて、ヴィチェスラフ辺境伯様は健康な跡継ぎを産んでくれるならば誰でも構わないとおっしゃると思いますよ」
「なら良かったわ。キーラ・ロイスよ。これからお願いします」
「はい、かしこまりました」
(愛称で呼んでるってことは、よっぽど親しい腹心を送ってくれたのかしら)

 これから向かうのは死の森で、そして死神の元へ嫁ぐのだ。それでも彼の様子に少し安堵した私は、馬車に乗り込む前にもう一度、私の身勝手な計画に巻き込んだ被害者たるふたりへと向き直り頭を下げた。

「慰謝料には足りないかもしれません。本当に、本当にごめんなさい」
「い、いえ、これだけあれば生活に困ることはないし……」
「どういうこと? 私、嫁がなくてもいいの?」
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