愛なんて要らないはずでした~逃げるために嫁いだのに、心まで奪われています~
 夫婦仲が良好な──むしろ良すぎるふたりから存分に愛情を注がれ育った私は、兄妹にこそ恵まれなかったが幸せいっぱいに暮らしていた。お金の心配もなく、使用人たちからも愛され、両親からも大事にされていた。まさに絵に描いたような幸せな家だった。
 そんな幸せに暗雲が立ち込めたのは、私が十二歳になった時だった。

 母が、病に倒れたのである。
 国中の医師を呼び、診てもらったが母の体調は戻ることはなく、母が倒れて僅か三か月ほどで帰らぬ人となったのだ。
 そこからの父は見るのも辛いほどで、夫婦の部屋で涙に暮れる父をどうにかして励ませないかと考えた。

 だがその想いは虚しく、母の面影を色濃く残す私はむしろ避けられていた。毎朝夫婦の寝室の扉を叩き、声をかけたが開くことはない。
 誰もが羨むような家の中は、その頃とは打って変わりまるで闇に包まれたよう。父の哀しみはそれだけ大きかったのだ。幸い使用人たちとも仲が良かったおかげで彼らの手を借り、なんとか商団の継続ができたお陰で家が潰れることはなかったが、その忙しさも相まって父と顔を合わせることがないまま更に数年が過ぎた。
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