愛なんて要らないはずでした~逃げるために嫁いだのに、心まで奪われています~
 そして、私が十六になった年、父に変化が現れたのだ。

 その日も私は顔を合わせなくなった父の元へ出向き、声をかけたのだが、母が亡くなってはじめて扉が開いたのである。四年ぶりに会った父は、すっかり痩せこけて別人のようだったが、私と同じ赤い瞳を見開き、そして私を「リアナ」と呼んだ。
 母の名前が、「リアナ」だったのだ。そして奇しくも、父が母と出会った時と同じ年齢だった。

 動揺しつつも、その頃には妖精と見紛う美貌とされた母と生き写しだと言われていた私は、きわめて冷静に口を開く。

「違いますわ、お父様。キーラでございます」
「キーラ……?」
「はい。一人娘の、キーラです」
「そうか、娘……。キーラ、キーラ……」

 その日はそのまま何かをブツブツと口にしながら扉が閉められ、再び開くことはなかったが、変化は翌日にも現れた。
 父が、身なりを整えて寝室から出たのである。

 ずっと部屋に籠っていたせいで筋力は衰え、頬もこけていたが、それでも自身の足で歩き、声を発する父に家は喜びに包まれた。長らく続いた闇がようやく晴れたのだと誰もが安堵した瞬間だった。
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