今夜も執事は、お嬢様を手放さない
「でも、普通にお話ししてただけだよ?」
「お嬢様にとっては、でしょうね」
窓の外を流れる景色を背に、碧がことはを見る。その目は穏やかなのに、妙に逃げ場がない。
「ですが、相手は違います」
「ちがうって……?」
「好意を持った男に無防備に近づけば、誤解されます」
ことはの頬がかっと熱くなる。
「ご、誤解なんて」
「されておりますよ。すでに」
「えぇ……」
「少しはお気をつけください」
叱られているみたいで、ことははしゅんと肩を落とす。
「ごめんなさい……」
すると碧は、ほんの少しだけ目を細めた。
「そうやって素直に謝るところも、困るのです」
「えっ、また?」
「ええ。またです」
ことははもう意味がわからない。けれど碧はそれ以上説明する気がないらしく、視線を逸らした。
しばらく沈黙が続く。
やがて車が屋敷へ向かって静かに走る中、碧がぽつりと口を開いた。
「お嬢様」
「なぁに?」
「今後、放課後にお一人で残られる際は、必ず私にご連絡ください」
「うん」
「約束できますか」
「できるよ」
「よろしい」
その返事に満足したように、碧はわずかに微笑む。
けれどその横顔は、どこかまだ冷えて見えた。
ことははそっと彼の袖をつかむ。
「碧」
「はい」
「ほんとに怒ってない?」
その問いに、碧は少しだけ沈黙した。
そして、ゆっくりとことはを見つめ返す。
「怒ってはおりません」
「じゃあ……」
「ただ」
そこで言葉を切った碧の指先が、ことはの手にそっと触れた。
「他の男に近づかれるお嬢様を見るのは、あまり愉快ではありませんね」
あまりにも静かな声で告げられて、ことはは息をのむ。
「それって……」
「深い意味はございません」
すぐに微笑まれてしまって、何も言えなくなる。
深い意味がないはずなのに、胸の奥だけが妙にざわついた。
東雲碧は、今日も完璧だった。
誰よりやさしく、誰より丁寧で、誰よりことはを守ってくれる。
でもその守り方は、ただ穏やかなだけではない。
少しずつ、少しずつ。
ことはが知らないうちに、彼の手の中へ閉じ込められていくみたいだった。
「お嬢様にとっては、でしょうね」
窓の外を流れる景色を背に、碧がことはを見る。その目は穏やかなのに、妙に逃げ場がない。
「ですが、相手は違います」
「ちがうって……?」
「好意を持った男に無防備に近づけば、誤解されます」
ことはの頬がかっと熱くなる。
「ご、誤解なんて」
「されておりますよ。すでに」
「えぇ……」
「少しはお気をつけください」
叱られているみたいで、ことははしゅんと肩を落とす。
「ごめんなさい……」
すると碧は、ほんの少しだけ目を細めた。
「そうやって素直に謝るところも、困るのです」
「えっ、また?」
「ええ。またです」
ことははもう意味がわからない。けれど碧はそれ以上説明する気がないらしく、視線を逸らした。
しばらく沈黙が続く。
やがて車が屋敷へ向かって静かに走る中、碧がぽつりと口を開いた。
「お嬢様」
「なぁに?」
「今後、放課後にお一人で残られる際は、必ず私にご連絡ください」
「うん」
「約束できますか」
「できるよ」
「よろしい」
その返事に満足したように、碧はわずかに微笑む。
けれどその横顔は、どこかまだ冷えて見えた。
ことははそっと彼の袖をつかむ。
「碧」
「はい」
「ほんとに怒ってない?」
その問いに、碧は少しだけ沈黙した。
そして、ゆっくりとことはを見つめ返す。
「怒ってはおりません」
「じゃあ……」
「ただ」
そこで言葉を切った碧の指先が、ことはの手にそっと触れた。
「他の男に近づかれるお嬢様を見るのは、あまり愉快ではありませんね」
あまりにも静かな声で告げられて、ことはは息をのむ。
「それって……」
「深い意味はございません」
すぐに微笑まれてしまって、何も言えなくなる。
深い意味がないはずなのに、胸の奥だけが妙にざわついた。
東雲碧は、今日も完璧だった。
誰よりやさしく、誰より丁寧で、誰よりことはを守ってくれる。
でもその守り方は、ただ穏やかなだけではない。
少しずつ、少しずつ。
ことはが知らないうちに、彼の手の中へ閉じ込められていくみたいだった。


