きみと、どうかしてる。
「ねぇ千尋、」
「なに」
「……歩けない」
「は?」
店から出た途端に座り込んで、弱々しい力で手を握られる。
中より外で騒がれる方が、恥ずかしくて辛い。味方もいないし。
「嘘つけ。ここまで普通に歩いてただろ」
「ほんとだもん。ほんとにこれ以上歩けないんだもん、千尋が無理やり帰らせようとするから」
「理由になってない」
「だから、抱っこ。」
「は?」
「車まで抱っこ!!」
突拍子もないことを言いながら上げた顔は、真剣そのものなのに。
こいつには、羞恥心ってものがないんだろうか。
「こんなとこに座り込むから、ただでさえ変な目で見られてんのに?」
「抱っこって言っても縦じゃないよ。お姫様抱っこね!」
「あのなぁ。お前、」
「横抱き姫抱き亜美子抱き、ってね!」
「………」
「いえーい!!!」
お姫様抱っこって。
それはいくらなんでも、どう考えても。
……さすがに、ハードル高すぎ。
「してくれないならここで寝る」
「………」
「絶対ぜーーったい、帰らなーい!!」
「………」
ここは外で、しかも、はたから見ればバカップルでしかないこのやりとりを。
晒し続けるのは、俺のメンタルが持たない。
「今日もいっぱい飲んだからぁ、」
「………」
「すーぐ寝られそうだなー!」
「……腕。」
「うん?」
「腕、さっさと回せ」
「うんっ!!」
これみよがしに嫌がる俺に対して、亜美子は満面の笑みで、素直に両手を伸ばしてくる。
「ねーねーねー!あたし今、めっちゃお姫様みたいじゃない?」
「………」
「いやぁ、ロマンチックですなー!」
「………」
空気が読めない能天気騒音バカのせいで、周囲の視線だけじゃなくて胃も痛くなってきた気がする。
「黙ってろ」
「本物のお姫様は、どういう時にお姫様抱っこされるのかな?やっぱり、助けに来てもらったとき?」
「口を開くな」
「助けに来てくださったのね、千尋王子。
亜美子姫感激!」
「だから、」
「次から帰りはこれで運んでもらおうかな。
どう?検討の余地ある?」
「あるわけない」
「楽でいいね、最高だね!ひゅー!」
「………」
腕の中でニコニコと笑顔を絶やさない亜美子は、どうやらまともに会話する気がないらしいから。さっさと運んでしまおう。