きみと、どうかしてる。
「痴話喧嘩は終わったかな?」
千尋と話している間、何をしていたのかと思えば、詰問する準備を整えていたようで。
机の上には例のノートが開いた状態で置かれていて、自分の隣の空きスペースをぽんぽんと叩いて誘う。
「ははは…」
この状況はもう、笑うしかない。
「谷村さんって、音楽聞くの?」
「え。音楽?」
誘われるがままに座った途端、千尋と全く関係のない話を振られて唖然とする。
てっきり、千尋とのことを根掘り葉掘り聞いてくるものだと思っていたから。
……ていうか、それ以外のことを聞かれるなんて。予想してなかった。
「そういえば、谷村さんがイヤホンしてる姿は見たことないなぁと思って。どんなの聞くのかなって」
「………」
これも作戦の一環なのかもしれないけど、これぐらいの質問になら答えておこうと思考を巡せる。
「最近よく聞いてるのは、ワーグナー」
「ワーグナー?洋楽かな?」
「ううん、クラシック」
「くらっ…クラシック!?」
どうやらあたしの回答がお気に召したようで、極限までノートに顔を近付けて夢中になってしまう。
「普段は主にクラシックを?人の声が入ってるものは聞かないのかな?」
「テレビで流れてるのならどうにか…
あ、でも。テレビあんまり付けてないや」
「ということは、谷村さんに"好きに歌ってて"って言ってきた夏川さんとは、仲良さそうに見えて、そこまで知った仲ではないということかな」
「え?」
「あ、失礼。これは言わなくて良かったね」
今の発言は失言にあたるらしく、ハッとして口に手をあてる森下さん。
確かに、お互いのことは全然知らないし、教えられないけど。
……今の話だけで分かるの、才能ありすぎるんじゃない?