あの日の続き
第6章最後のブザー
あっという間だった。
春に新しい背番号を受け取ってから、季節は何度も変わった。
桜が咲いた。
体育館が暑くなった。
夏になった。
大会が始まった。
勝った試合もあった。
負けた試合もあった。
うまくいかなくて、練習中に言い合いになった日もあった。
帰り道、くだらないことで笑い続けた日もあった。
練習が終わっても体育館に残って、何度もシュートを打った日もあった。
誰かが落ち込んでいたら、何も言わず隣に座るやつがいた。
誰かが失敗したら、「次」と声をかけるやつがいた。
そして、いつの間にか。
六人にとって、この体育館はただバスケをする場所ではなくなっていた。
学校で一番長く過ごす場所。
笑った場所。
悔しくて泣いた場所。
何度も仲間とぶつかった場所。
そして――青春そのものだった。
夏の県大会。
最後の大会。
三年生にとっては、これが最後だった。
県大会ベスト8。
今日勝てば、ベスト4。
ずっと届かなかった場所だった。
試合前。
ベンチに座る六人の表情は、いつもと違った。
緊張している。
それでも、誰も口にはしなかった。
「……るい」
しょうぶが呼ぶ。
「ん?」
「今日、勝とうな」
るいは笑った。
「うん」
りょうたが隣で靴紐を結び直す。
ゆうとはいつも通り、
「絶対勝つぞー!」
と大きな声を出している。
れいは静かに相手コートを見ていた。
たくやは笑っていた。
いつもと変わらない。
だけど。
六人とも分かっていた。
これが最後になるかもしれない。
---
試合開始。
最初から激しい試合だった。
一点取られれば、一点取り返す。
相手も譲らない。
前半終了。
ほとんど互角。
ベンチに戻ってくる選手たち。
「まだいける!」
ゆうとが叫ぶ。
「一本ずつ!」
るいも声を出す。
後半。
少しずつ相手に流れが傾き始める。
そして――
「っ……!」
しょうぶが足を止めた。
「しょうぶ?」
「……足、つった」
それでも、しょうぶは立とうとした。
「大丈夫」
「無理すんな!」
るいが駆け寄る。
しょうぶは悔しそうに顔を歪めた。
「まだ出られる」
「先生に任せろ」
佐々木先生の声が飛ぶ。
ベンチに戻るしょうぶ。
残り時間は少ない。
それでも、誰も諦めなかった。
「りょうた!」
パスが飛ぶ。
受け取った瞬間――
「……っ!」
りょうたが足をひねった。
「りょうた!」
今度はゆうとが駆け寄る。
「大丈夫」
「大丈夫じゃないだろ!」
「まだやれる」
りょうたは立ち上がろうとした。
けれど、先生が止めた。
「無理するな」
「……はい」
ベンチへ戻る。
その顔は悔しさでいっぱいだった。
そして。
コートに残ったるいも、前日の練習で痛めた足を抱えていた。
それでも最後まで走った。
痛みなんて忘れるくらい。
ただ、勝ちたかった。
みんなで、次へ行きたかった。
けれど。
試合終了のブザーが鳴った。
最後のシュートは、リングに弾かれた。
78対72。
六点差。
負けた。
---
「…………」
誰も動かなかった。
ブザーが鳴ったのに。
試合が終わったのに。
誰も立ち上がれなかった。
るいが俯く。
しょうぶがベンチで顔を覆う。
りょうたは唇を噛みしめる。
ゆうとは何度も目を擦る。
れいは俯いたまま動かない。
たくやは――
笑っていなかった。
ずっと笑っていたたくやが。
初めて、笑顔をなくしていた。
「……悔しい」
誰かが呟いた。
それをきっかけに。
堰を切ったように、みんなが泣き始めた。
「……勝ちたかった」
「……もっとやりたかった」
「終わりたくねぇよ……」
体育館に、泣き声が響いた。
春に新しい背番号を受け取ってから、季節は何度も変わった。
桜が咲いた。
体育館が暑くなった。
夏になった。
大会が始まった。
勝った試合もあった。
負けた試合もあった。
うまくいかなくて、練習中に言い合いになった日もあった。
帰り道、くだらないことで笑い続けた日もあった。
練習が終わっても体育館に残って、何度もシュートを打った日もあった。
誰かが落ち込んでいたら、何も言わず隣に座るやつがいた。
誰かが失敗したら、「次」と声をかけるやつがいた。
そして、いつの間にか。
六人にとって、この体育館はただバスケをする場所ではなくなっていた。
学校で一番長く過ごす場所。
笑った場所。
悔しくて泣いた場所。
何度も仲間とぶつかった場所。
そして――青春そのものだった。
夏の県大会。
最後の大会。
三年生にとっては、これが最後だった。
県大会ベスト8。
今日勝てば、ベスト4。
ずっと届かなかった場所だった。
試合前。
ベンチに座る六人の表情は、いつもと違った。
緊張している。
それでも、誰も口にはしなかった。
「……るい」
しょうぶが呼ぶ。
「ん?」
「今日、勝とうな」
るいは笑った。
「うん」
りょうたが隣で靴紐を結び直す。
ゆうとはいつも通り、
「絶対勝つぞー!」
と大きな声を出している。
れいは静かに相手コートを見ていた。
たくやは笑っていた。
いつもと変わらない。
だけど。
六人とも分かっていた。
これが最後になるかもしれない。
---
試合開始。
最初から激しい試合だった。
一点取られれば、一点取り返す。
相手も譲らない。
前半終了。
ほとんど互角。
ベンチに戻ってくる選手たち。
「まだいける!」
ゆうとが叫ぶ。
「一本ずつ!」
るいも声を出す。
後半。
少しずつ相手に流れが傾き始める。
そして――
「っ……!」
しょうぶが足を止めた。
「しょうぶ?」
「……足、つった」
それでも、しょうぶは立とうとした。
「大丈夫」
「無理すんな!」
るいが駆け寄る。
しょうぶは悔しそうに顔を歪めた。
「まだ出られる」
「先生に任せろ」
佐々木先生の声が飛ぶ。
ベンチに戻るしょうぶ。
残り時間は少ない。
それでも、誰も諦めなかった。
「りょうた!」
パスが飛ぶ。
受け取った瞬間――
「……っ!」
りょうたが足をひねった。
「りょうた!」
今度はゆうとが駆け寄る。
「大丈夫」
「大丈夫じゃないだろ!」
「まだやれる」
りょうたは立ち上がろうとした。
けれど、先生が止めた。
「無理するな」
「……はい」
ベンチへ戻る。
その顔は悔しさでいっぱいだった。
そして。
コートに残ったるいも、前日の練習で痛めた足を抱えていた。
それでも最後まで走った。
痛みなんて忘れるくらい。
ただ、勝ちたかった。
みんなで、次へ行きたかった。
けれど。
試合終了のブザーが鳴った。
最後のシュートは、リングに弾かれた。
78対72。
六点差。
負けた。
---
「…………」
誰も動かなかった。
ブザーが鳴ったのに。
試合が終わったのに。
誰も立ち上がれなかった。
るいが俯く。
しょうぶがベンチで顔を覆う。
りょうたは唇を噛みしめる。
ゆうとは何度も目を擦る。
れいは俯いたまま動かない。
たくやは――
笑っていなかった。
ずっと笑っていたたくやが。
初めて、笑顔をなくしていた。
「……悔しい」
誰かが呟いた。
それをきっかけに。
堰を切ったように、みんなが泣き始めた。
「……勝ちたかった」
「……もっとやりたかった」
「終わりたくねぇよ……」
体育館に、泣き声が響いた。