婚約者の溺愛が重すぎて、普通の恋ができません!
 そして迎えた週末の夜。

「それでは、高槻先生の着任を祝って――乾杯!」
「乾杯!」

 課長の声に合わせて全員がグラスを掲げる中、私は誰よりも早く店へ入った甲斐あって、京志郎から一番遠いテーブルの、その中でもさらに死角になりそうな席をしっかり確保していた。

 ここからなら京志郎の姿は人と人の隙間からほんの少し見える程度だ。当然、あちらからも私のことなどほとんど見えないはず。完璧だ。

 私は自分の席取り能力に満足しながらビールをちびちび飲んでいると、隣に座っていた男性から声をかけられた。

「小宮山さんが参加なんて珍しいね。自分のときの歓迎会は派遣だからいらないですって言ってたのに」
「ちょっと事情がありまして……」
「そっか」

 そう言ってニッと笑ったのは仁科大輔さんで、私より少し前に営業部から総務部へ異動してきた人だ。
 気さくで話しやすく、仕事でも何度か助けてもらったことがある。

 そういえば仁科さんは二十八歳で、まだ結婚していないと誰かが話していた気がする。

 改めて見てみれば背も高いし、笑った顔も爽やかだし、営業部にいただけあって会話も上手。
 少なくとも私に話しかけた男性を片っ端から威圧するどこかの誰かとは違って、極めて正常な人間である。

 もしかして、こういう人となら恋のタネがいつか芽吹いていくのではないだろうか。

 そう思った私は、仁科さんへいつもより少しだけ愛想よく笑い返した。
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