婚約者の溺愛が重すぎて、普通の恋ができません!
1章:普通の生活と悪夢
私――小宮山真白の人生は、家族と、そして何より〝アイツ〟の存在によって、物心がついたころから現在に至るまで、これでもかというほど好き勝手に狂わされてきた。
だからこそ、大学卒業を目前に控えた私は、これからの人生を選ぶために、ある重大な決断を下したのだ。
――逃げよう。
家も、家族も、これまで与えられてきた恵まれた環境も、自分のすべてを投げ捨ててでも、とにかくアイツの手が届かないところまで逃げ切って、今度こそ自分の人生を手に入れよう。
そう決意してからの私は我ながら驚くほど行動が早かった。
大学卒業と同時に親から勝手に決められていた実家の関連企業への就職を蹴り、家族にはもちろんアイツにも行き先を告げないまま都内を脱出した。
新幹線に乗らなければ簡単には来られないほど離れた土地へ逃亡し、実家ともアイツとも一切関係のない派遣会社に登録して、そのまま生まれて初めての一人暮らしを始めた。
もちろん、それまで実家を出たことすらなかった私にとって、一人暮らしなんて人生で初めての経験だ。
家賃や光熱費を自分で払うことも、毎日の食事を自分で用意することも、トイレットペーパーが勝手に補充されないという当たり前の事実さえ、最初のうちはいちいち新鮮だった。
逃亡資金は、これまでもらっていたお小遣いをこっそり貯めて作ったものだから決して潤沢とはいえないけれど、私の物欲のなさのおかげで何とかなかった。
そして、なにより、事情を知ったうえで力を貸してくれる頼もしい協力者までいる。
私の逃亡は、無事に成功したのだ。