海色の恋〜冷徹社長の甘い愛に染められて〜
私はコーヒーを一口飲んでからそっとテーブルに置いた。背筋を伸ばし、改めて向かいに座る時透社長を見つめる。整いすぎた顔。冷たい瞳。その姿を眺めていると、ふと一つの疑問が浮かんだ。

「あの」

「何だ」

「もしかして…社長が、ルイさんなんですか?」

そう尋ねた瞬間。コーヒーを口にしていた時透社長と、目が合った。数秒の沈黙。そして――。

「ああ」

「……えっと、そうするとですね」

まずい。私は今まで、本人が目の前にいるとも知らずに――。
「このエンゼルフィッシュ、綺麗ですけど少し寂しそうです」とか。「影が暗い」とか。本人に向かって、デザインのダメ出しをしていたということ?これ詰んだのでは?冷や汗が背中を伝う。もしかして、もうクビなのでは?とりあえず手土産を渡してしまおう。そうすれば、今までの失言も少しは有耶無耶になるかもしれない。

「よければどうぞ」

恐る恐る紙袋を差し出す。

「ああ」

彼は短く答え、紙袋を受け取った。とりあえず受け取ってもらえたことに、私はほっと胸を撫で下ろした。すると時透社長が口を開いた。

「君が気になる」

「え?」

思わず目を見開くと真っ直ぐな瞳が私を見ていた。

「それはどういう意味ですか!?」

まさか。社長って、私のこと――。す、好きなの!?一瞬で頬が熱くなる。けれど。

「感性の話だ」

温度のない目で、淡々と言われた。

「あ」

違う。これ、完全に違うやつだ。

「ですよね」

恥ずかしい。ものすごく恥ずかしい。今の私、何を期待したの?穴があったら入りたい。

「君が俺のデザインを見て、『寂しい』と言っただろ」

時透社長は、そんな私を気にも留めずデザイン画をテーブルの上へ置いた。

「他の誰も、そこを指摘しなかった」

その指先が、エンゼルフィッシュの描かれた部分をなぞる。

「何かが足りないということは、俺自身もわかっている」

わずかに眉間へ皺が寄る。

「だが――」

彼はデザイン画を見つめたまま、続けた。

「今回のコンセプトである『愛される女性』を表現したデザインが、どうしても浮かばない」

「愛される女性」

その言葉を、私は小さく繰り返した。時透社長が顔を上げる。

「だから、君に聞きたい」

「私に?」

「ああ」

冷たい瞳が、まっすぐ私を捉える。

「君なら、どんなものを見たら『愛されている』と感じる?」

思いがけない問いに、私は言葉を失った。
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