海色の恋〜冷徹社長の甘い愛に染められて〜
「シャワー、ありがとうございました」

私は急いで髪を整え、用意してもらったワンピースの裾を確認する。

「私、もう行きますね。服は後日、きちんとお返しします」

そう言って玄関へ向かおうとした、そのとき。

「待て」

低い声が飛んできた。

「はい?」

振り返る。時透社長はリビングのソファに座り、雑誌をめくっていた。こちらを見ることもなく、淡々と告げる。

「打ち合わせは、ここでいい」

「どういうことですか?」

意味がわからず、私は時透社長を見つめる。すると、ゆっくりと雑誌から顔が上がった。整った顔。涼しげな目元。けれど、その瞳には相変わらず温度がない。

「察しが悪いな」

「え?」

「だから、変な男にも目をつけられる」

「はい!?」

思わず声が裏返った。どういう理屈!?私が何か言い返そうとするより先に、時透社長はソファから立ち上がった。キッチンへ向かい、慣れた手つきでコーヒーを淹れ始める。ふわりと、香ばしい香りが漂ってきた。すると時透社長がこちらをちらりと見る。

「仕事以外でも、あんなに愛想を振り撒いて」

「愛想……?」

「こんな目に遭うなんて、愚かだな」

そんな言い方。私は思わず眉を寄せる。さっきから、言葉がいちいち刺さる。けれど時透社長は、淹れたばかりのコーヒーを私の前へそっと差し出した。

「どうぞ」

思わずカップを見る。湯気が立ち上っているコーヒー。言っていることと、やっていることが矛盾していない?

「ありがとうございます」

おそるおそるカップを受け取る。指先に伝わる温かさに、少しだけ肩の力が抜けた。この人の言葉も表情もこんなに冷たいのに。どうしてこんなに、さりげなく気を遣ってくれるんだろう。ちらりと見るけれど彼はもう、何事もなかったようにソファへ戻って雑誌を開いていた。やっぱり、よくわからない人だ。
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