海色の恋〜冷徹社長の甘い愛に染められて〜
「君は、強いんだな」

時透社長が静かに言った。

「そんな過去があっても、ちゃんと前を向いて笑っている。素敵だと思う」

真っ直ぐな言葉に、思わず胸がぎゅっとなる。

「いや、そんな……」

なんだか照れくさくなって、私は首を横に振った。

「私からしたら、社長のほうがすごいですよ」

「俺が?」

「はい。膨大な仕事量をこなして、社長業だけじゃなくてデザイン画まで考えて。妥協もしないし、本当にすごいです」

それに、と付け加える。

「私みたいな社員の名前まで、ちゃんと覚えてるし」

そう言うと、時透社長は少しだけ目を細めた。

「全員の名前を覚えているわけではない」

「え?」

「でも、君のことは以前から知っていた」

優しく微笑まれる。

「えっ…な、なんでですか?」

「なんでだろうな」

時透社長は、曖昧に笑った。

「なんか、ずるくないですか⁉」

気になって、思わず前のめりになる。

「ずるい、か」

時透社長はソファの背もたれに、ゆっくりと身体を預けた。

「まあ、それでいいさ」

「一人で納得しないでくださいよ」

思わずむくれる。すると、時透社長がふっと笑った。

「はは。いいデザインが浮かんだんだ」

「え?」

「それが完成したら、教えてあげるよ」

「本当ですか? 楽しみです」

ぱっと顔を上げて、笑ったその瞬間だった。時透社長がカップをテーブルに置き、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。

「社長?」

目の前で足を止めた時透社長が、私を見下ろす。近い。そう思った瞬間、綺麗な顔がゆっくりと近づいてきた。思わず身体が固まる。伸びてきた腕が、私の頭の上を通った。そして――大きな手のひらが、そっと髪の上に触れる。

「あまり無防備に笑うと――」

低く落とされた声に、心臓が大きく跳ねた。

「俺みたいな男にも、つけ込まれるぞ」

「え?」

冗談なのか、本気なのか。いつものように淡々とした声なのに、その距離の近さのせいで、どうしても意識してしまう。頭に置かれた大きな手。その温もりが、なぜかいつまでも消えなかった。
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