海色の恋〜冷徹社長の甘い愛に染められて〜
時透社長の家を後にしてから、なんとなく顔を合わせるのが気まずい。あんなに冷徹な人だと思っていたのに。優しく笑うあの顔。思い出すだけで、正直心臓に悪すぎる。そんなことを考えながら職場へ向かい、建物に入ろうとしたそのとき。

「七海さん!」

背後から声をかけられた。振り返った瞬間――固まる。この人、カフェで私にコーヒーをかけてきた店員だ。というか……。

「なんで、私の名前」

しかも、どうして職場まで知っているの?嫌な予感がして、一歩後ずさる。

「やっぱり君は、僕の運命の人だと思うんだ」

彼は嬉しそうに笑った。

「だから、僕と付き合ってほしい」

そう来たか。

「ごめんなさい」

私は丁寧に頭を下げた。

「忘れられない人がいるから?」

「え?」

その言葉に、思わず顔を上げる。

「調べたんだ。君のこと」

背筋が冷たくなった。

「大好きな人を事故で亡くしてたんだね。可哀想に。でも、大丈夫だよ」

その言葉に、胸の奥がざらりとした。

「僕が彼のことを忘れさせてあげる」

優しく微笑み。そして、当然のように言う。

「僕が君を幸せにするよ」

ああ。ダメだ。一気に気持ちが冷めていく。この人は、何もわかっていない。私はゆっくり息を吸った。

「忘れさせる?」

「うん。僕が彼以上の男になるよ」

その瞬間。何かが、ぷつりと切れた。

「私は忘れたいなんて思ったこと、一度だってない」

自分でも驚くほど、低い声が出た。

「大切で、大好きだった人の記憶も全部抱えて、私はこれから歩いていくって決めてるの」

真っ直ぐに相手を睨みつけ、一度言葉を飲み込む。

「私の気持ちを踏みにじるな…クソが」

そして、吐き捨てるように言い放った。
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