海色の恋〜冷徹社長の甘い愛に染められて〜
「綺麗ですね…でも、なんだか寂しそうです」
デザイン画を見つめたまま、思わずぽつりとこぼした。
「なぜ、そう思う?」
突然、頭上から低い声が降ってきた。驚いて顔を上げた瞬間、張り詰めた空気が部屋を満たす。周囲の社員たちは一斉に姿勢を正し、先ほどまでのざわめきが嘘のように静まり返った。
「お、お疲れ様です!」
私も慌てて立ち上がる。さらりとした茶色の髪。涼しげな目元に、すっと通った鼻筋と長い手足に、隙のない整った顔立ち。まるで美術品のように綺麗な人。けれど、その瞳には温度がない。氷のように冷たい視線で、目の前に立つ私をじっと見下ろしている。
この会社の社長、時透海人(ときとう・かいと)。三十歳という若さで社長を務める彼は、頭の回転が早く、仕事も完璧にこなす。いわゆるやり手だ。そんな人が今はなぜか私だけを見ている。綺麗すぎる顔を間近で見ていると、自然と背筋が伸びた。
「答えて」
低い声に思わず息を飲んでから口を開く。
「影の色、でしょうか」
なんとか答える。
「影?」
時透社長がデザイン画を手に取った。淡い水色のケース。中央で泳ぐピンク色のエンゼルフィッシュ。華やかで可愛らしいデザインなのに私は、どこか寂しさを感じていた。
「はい。全体的には明るくて可愛いんですけど……」
私はデザイン画を指差す。
「このエンゼルフィッシュの下にある影が、少し濃い気がして」
時透社長は何も言わず、もう一度デザイン画に視線を落とした。しばらく、その絵を見つめている。
「絵の経験は?」
「え?」
突然の質問に、私は首を横に振った。
「ないです。見るのは好きですけど、技法とかについては何も知らなくて…」
そう答えると、時透社長が小さく息を吐いた。
「そうか」
やっぱり。絵のことを何も知らないくせに、適当なことを言ったと思われたのかもしれない。恐る恐る顔を上げる。けれど――。予想していた呆れた表情とは、少し違った。ほんの一瞬。彼の表情が、緊張から解放されたように柔らかくなった気がした。……ホッとした?そう思ったのも束の間。
「これ、もう一度コンセプトについてデザイナーと相談し直しで」
「えっ…あ、はい」
時透社長はそれだけ告げると、デザイン画を机に置いた。そして、何事もなかったかのようにその場を離れていく。私はその背中を呆然と見送った。
「なんだったんだろう」
手元に残ったデザイン画へ視線を落とす。中央で優雅に泳ぐ、ピンク色のエンゼルフィッシュ。綺麗。でも――。「…やっぱり、寂しそう」今度は、声には出さなかった。
デザイン画を見つめたまま、思わずぽつりとこぼした。
「なぜ、そう思う?」
突然、頭上から低い声が降ってきた。驚いて顔を上げた瞬間、張り詰めた空気が部屋を満たす。周囲の社員たちは一斉に姿勢を正し、先ほどまでのざわめきが嘘のように静まり返った。
「お、お疲れ様です!」
私も慌てて立ち上がる。さらりとした茶色の髪。涼しげな目元に、すっと通った鼻筋と長い手足に、隙のない整った顔立ち。まるで美術品のように綺麗な人。けれど、その瞳には温度がない。氷のように冷たい視線で、目の前に立つ私をじっと見下ろしている。
この会社の社長、時透海人(ときとう・かいと)。三十歳という若さで社長を務める彼は、頭の回転が早く、仕事も完璧にこなす。いわゆるやり手だ。そんな人が今はなぜか私だけを見ている。綺麗すぎる顔を間近で見ていると、自然と背筋が伸びた。
「答えて」
低い声に思わず息を飲んでから口を開く。
「影の色、でしょうか」
なんとか答える。
「影?」
時透社長がデザイン画を手に取った。淡い水色のケース。中央で泳ぐピンク色のエンゼルフィッシュ。華やかで可愛らしいデザインなのに私は、どこか寂しさを感じていた。
「はい。全体的には明るくて可愛いんですけど……」
私はデザイン画を指差す。
「このエンゼルフィッシュの下にある影が、少し濃い気がして」
時透社長は何も言わず、もう一度デザイン画に視線を落とした。しばらく、その絵を見つめている。
「絵の経験は?」
「え?」
突然の質問に、私は首を横に振った。
「ないです。見るのは好きですけど、技法とかについては何も知らなくて…」
そう答えると、時透社長が小さく息を吐いた。
「そうか」
やっぱり。絵のことを何も知らないくせに、適当なことを言ったと思われたのかもしれない。恐る恐る顔を上げる。けれど――。予想していた呆れた表情とは、少し違った。ほんの一瞬。彼の表情が、緊張から解放されたように柔らかくなった気がした。……ホッとした?そう思ったのも束の間。
「これ、もう一度コンセプトについてデザイナーと相談し直しで」
「えっ…あ、はい」
時透社長はそれだけ告げると、デザイン画を机に置いた。そして、何事もなかったかのようにその場を離れていく。私はその背中を呆然と見送った。
「なんだったんだろう」
手元に残ったデザイン画へ視線を落とす。中央で優雅に泳ぐ、ピンク色のエンゼルフィッシュ。綺麗。でも――。「…やっぱり、寂しそう」今度は、声には出さなかった。