海色の恋〜冷徹社長の甘い愛に染められて〜
「でも怒られたいんですか?」

思わず目をぱちぱちさせる。すると海人は少し考えるように目を細めた。

「そうだね。あのストーカーに言い放ったときの美月は、かっこよくて痺れたよ?」

「マゾですか?」

「人を変な性癖にしないでくれ」

そう言いながらも怒る様子はなく、穏やかな顔でお吸い物を口に運んでいる。
やがてデザートまで食べ終わり、海人がゆっくりと立ち上がった。

「そろそろ行こうか」

「は、はい」

私も立ち上がろうとして――

「……っ」

固まった。やばい。足、痺れてる。

「どうした?」

海人が怪訝そうにこちらを見る。

「あの」

言いたくない。ものすごく言いたくない。こんな高級料亭で、足が痺れて動けませんなんて。女性としてどうなの?しかも隣にいるのは、何をしてもスマートな海人。こんなので、本当にいいのかな。

「足、痺れて…」

小さな声で告げた瞬間。海人の綺麗な顔が、すっと近づいてきた。

「なら、俺が手取り足取り起こしてあげようか?」

「いや、あの」

「ふっ」

海人が笑う。

「顔、真っ赤」

「だって……!」

「まず、つま先を立ててみて」

言われた通りにしてみる。

「こう?」

「うん、そのまま」

海人がそっと私の足元に手を添えた。

「無理しなくていいよ。ゆっくりでいい」

「す、すみません…」

「気にしなくていい」

そう言って、海人は私の身体をそっと支えてくれる。

「俺も子どもの頃、よくなったから」

「そうなんですか?」

「うん。だから大丈夫」

正直完璧超人の海人が足が痺れて動けない姿は想像できない。そんな彼に優しく声をかけられて、少しずつ足の感覚が戻ってくる。よかった。そう思った、その瞬間。耳元に、ちゅっと柔らかな感触が落ちた。

「な、何するんですか!?」

思わず振り向く。海人は涼しい顔で微笑んでいた。

「したくなった」

「え?」

「可愛くもじもじしてたから」

…なんか。馬鹿にされている気がする。

「もう、平気です!」

恥ずかしさをごまかすように、今度こそぐっと立ち上がる。

「ならよかった」

海人も立ち上がる。そして、何事もなかったかのように私の手をそっと取った。

「行こうか」

「…はい」

繋がれた手が、なんだか少しだけ熱かった。
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