加納欄の冤罪シリーズ33シーズン4
「な、なんだよ!」

背後で男の声がした。

あたしはようやく振り向いた。

四十代くらいの男が、驚いた顔で久世さんを見ている。

一見普通のサラリーマンだ。

「何もしてない! 混んでたから当たっただけだ!」

「こちらで確認しています」

三枝さんが男の腕を取る。

「離せよ!」

男が身体を捻った。

榊原さんがすぐに反対側へ回る。

「暴れないでください!」

車内が一気にざわついた。

乗客たちが何事かと振り返る。

あたしはその場から動かなかった。

あたしの隣には久世さんがついてくれた。

今のあたしは、被害者。

取り押さえるのは、あたしの仕事じゃない。

その時だった。

人混みの向こうで、赤い帽子が動いた。

さっきまでこっちを見ていた男。

その手には、スマホが握られている。

あたしと目が合った。

男の顔色が変わった。

一歩、後ろへ下がる。

視線だけが、開いているドアへ向いた。

――逃げる!

「待って!」

男が乗客を押し退けた。

人の間を無理やり抜け、ホームへ飛び出す。

「大山先輩!」

あたしは男を指さした。

「赤い帽子の男、捕まえてください! 盗撮されました!」

大山先輩が振り向く。

次の瞬間、赤い帽子を追ってホームを駆け出した。
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