神の手と呼ばれた私は、今日も旦那様を寝落ちさせたい ~極上ヘッドスパで癒していたら、旦那様が極上スパダリに進化しました~
それから、シエラへの扱いはさらに酷くなった。
「ああ、忌々しい。あなたの顔を見ると、あの女を思い出すわ」
継母は、成長するほど亡き母に似ていくシエラを嫌った。
エリザも真似をするように、「醜い」「顔を上げないで」と繰り返した。
最初は違うと思っていた。母はいつも、シエラを可愛いと言ってくれていたから。
けれど毎日のように否定され続けるうちに、その記憶さえ信じられなくなっていった。
(お母様だけが、優しい嘘をついてくれていたのかもしれない)
いつしか人の視線が怖くなり、シエラは前髪を長く伸ばして顔を隠すようになった。
やがて「どうしてこんな醜い顔を見ながら食事しなきゃいけないの?」と、エリザが不満をもらしたことをきっかけに、食卓からも追い出された。
本邸を歩くことさえ嫌がられたシエラは、離れへ移された。
最低限出席させられる夜会でも、人の目が怖くて壁際から動けない。
「暗くて、気味が悪いわ」
「エリザ様とは大違いね」
そんな声を聞いても、もう腹は立たなかった。
(……やっぱり、私は醜いのね)
ただ、俯くことしかできなかった。
*
離れへ移されてから、何年か経った頃。
エリザの魔力調律は貴族社会でも広く知られるようになり、不調を抱えた魔術師がカーティス家を訪れることも珍しくなくなっていた。
ある日、シエラは本邸を訪れた一人の魔術師に目を留めた。
顔色が悪く、目の下には隈があり、何度もこめかみへ触れている。
(……お疲れみたい)
なぜか気になって仕方がなかった。
目元、首、肩。本人がどこにつらさを抱えているのかを探るように、無意識に視線が動いてしまう。
やがてエリザの調律を終えた魔術師が応接室から出てきた。
「随分楽になったよ。ありがとう、エリザ嬢」
確かに顔色はよくなっている。
けれどシエラには、まだ身体の奥に疲れが残っているように見えた。
(もっと……流して)
(それから、ほぐして……)
その瞬間、見たことのない光景が脳裏をよぎった。
薄暗い部屋の中。誰かの頭へ両手を添え、こめかみを押し、張りつめた頭皮をゆっくりとほぐしていく。
やがて相手の呼吸が深くなり、静かな寝息へ変わった。
「……っ」
気づいた時には、もう光景は消えていた。
こういうことは、この頃から少しずつ増えていた。
眠れていない人。酷く疲れている人。頭や首を押さえている人。
そんな姿を見ると、なぜか放っておけない。
どうしてか、自分なら何かしてあげられるような気がすることがあった。
まるで、自分の身体だけが、自分の知らない何かを覚えているようだった。
(……魔力調律も、できないくせに)
それでも時折、胸の奥に奇妙な空白を感じた。
――私の中から、大切な何かだけが抜け落ちているような。
答えを知ることのないまま、いつしかシエラは十八歳になっていた。
「ああ、忌々しい。あなたの顔を見ると、あの女を思い出すわ」
継母は、成長するほど亡き母に似ていくシエラを嫌った。
エリザも真似をするように、「醜い」「顔を上げないで」と繰り返した。
最初は違うと思っていた。母はいつも、シエラを可愛いと言ってくれていたから。
けれど毎日のように否定され続けるうちに、その記憶さえ信じられなくなっていった。
(お母様だけが、優しい嘘をついてくれていたのかもしれない)
いつしか人の視線が怖くなり、シエラは前髪を長く伸ばして顔を隠すようになった。
やがて「どうしてこんな醜い顔を見ながら食事しなきゃいけないの?」と、エリザが不満をもらしたことをきっかけに、食卓からも追い出された。
本邸を歩くことさえ嫌がられたシエラは、離れへ移された。
最低限出席させられる夜会でも、人の目が怖くて壁際から動けない。
「暗くて、気味が悪いわ」
「エリザ様とは大違いね」
そんな声を聞いても、もう腹は立たなかった。
(……やっぱり、私は醜いのね)
ただ、俯くことしかできなかった。
*
離れへ移されてから、何年か経った頃。
エリザの魔力調律は貴族社会でも広く知られるようになり、不調を抱えた魔術師がカーティス家を訪れることも珍しくなくなっていた。
ある日、シエラは本邸を訪れた一人の魔術師に目を留めた。
顔色が悪く、目の下には隈があり、何度もこめかみへ触れている。
(……お疲れみたい)
なぜか気になって仕方がなかった。
目元、首、肩。本人がどこにつらさを抱えているのかを探るように、無意識に視線が動いてしまう。
やがてエリザの調律を終えた魔術師が応接室から出てきた。
「随分楽になったよ。ありがとう、エリザ嬢」
確かに顔色はよくなっている。
けれどシエラには、まだ身体の奥に疲れが残っているように見えた。
(もっと……流して)
(それから、ほぐして……)
その瞬間、見たことのない光景が脳裏をよぎった。
薄暗い部屋の中。誰かの頭へ両手を添え、こめかみを押し、張りつめた頭皮をゆっくりとほぐしていく。
やがて相手の呼吸が深くなり、静かな寝息へ変わった。
「……っ」
気づいた時には、もう光景は消えていた。
こういうことは、この頃から少しずつ増えていた。
眠れていない人。酷く疲れている人。頭や首を押さえている人。
そんな姿を見ると、なぜか放っておけない。
どうしてか、自分なら何かしてあげられるような気がすることがあった。
まるで、自分の身体だけが、自分の知らない何かを覚えているようだった。
(……魔力調律も、できないくせに)
それでも時折、胸の奥に奇妙な空白を感じた。
――私の中から、大切な何かだけが抜け落ちているような。
答えを知ることのないまま、いつしかシエラは十八歳になっていた。