閻魔様の恋カルテ~冷徹ドクターの秘密は恋のはじまり~

14 近づく距離

 その後、いろいろと細かい確認や打ち合わせをしているうちに、退勤時間を過ぎていた。
 ばららっと窓ガラスを叩く音。
 はっと顔を上げると、窓ガラスに雨粒がついていた。
 うわ、帰る前に置き傘を取ってこないと。
 私の焦りが伝わったのか、永緒先生も窓ガラスと時計を見て、顔をしかめた。

「すまない、遅くなった。今日はここまでだ」
「は、はい」

 広げていた書類をさっとファイリングしながら、明日の予定を確認して手帳にメモした。

「日下部さん、傘は」
「あ、大丈夫です。ロッカーに置き傘が」
「今からあちらの棟に戻るのも回り道だろう。このまま車で送る」

 会議室があるこの棟と職員用の設備がある棟は、繋がってはいるものの大きく迂回する必要がある。だから永緒先生の提案は渡りに船なのだけど……。

 ここまでしてもらって、いいのだろうか?
 私の中で、天使と悪魔が葛藤する。
 長引かせたのは永緒先生なんだから甘えちゃえ、という悪魔。
 もし森野さんに見咎められたりしたら余計な火種になるよ、という天使。

 うう、どうしよう。
 迷う私をそっちのけで、永緒先生はテキパキと支度を整えていく。
 送ってもらうにしてもひとりで帰るにしても、ここに私がとどまっていたら戸締りの邪魔になることだけは明らかだ。
 慌てて荷物を確認していると、チャリンと音がした。車のキーだろうか。

「……あ」

 かぴのすけだ。
 PHSについているのとは違う。サングラスをかけて悪ぶっているバージョンがキーホルダーについていた。

 かぴのすけ、ほんとに好きなんだ……。
 ん、待って。もしかして、かぴのすけって……永緒先生に似てる?

 閻魔様と呼ばれて恐れられているけど、実はこんなに優しくて仕事に誠実で。
 そんな自分を悟られないように、周りをよせつけないオーラを出している。
 そんな永緒先生とかぴのすけがダブって見えるなんて……。

「百面相をしている暇があったら支度を済ませてくれると有難いんだが」
「は、はいっ、ただいま!」

 慌ててバッグを引き寄せて立ち上がる。出口まで数歩で横切った永緒先生の後ろを、忙しなく私の足音が追いかける。
 戸締りを済ませている背中を見上げる。この角度で、この距離で見上げたことは前にもある。
 だけど、どうしてだろう。
 あの時よりも、永緒先生が近く感じられている。

「お待たせ。行こうか」

 鍵を片付けた永緒先生が、こちらを見下ろす。
 こくりと頷いて半歩だけ後ろを歩く。
 もう、送ってもらう流れが決定していた。
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