閻魔様の恋カルテ~冷徹ドクターの秘密は恋のはじまり~
18 すれちがい
「……な、永緒先生、今の」
「ああいう方なんだ。気が早くてお節介。悪いひとではないから安心してくれ」
「そうじゃなくて、お話に出てた断るだの何だのって、お、お見合いとか……ですよね。ええと、私、そういうカモフラージュ役はちょっと……」
「いつ俺が、カモフラージュ役を頼んだ?」
そのひと言は、しんとした会議室の中ではっきりと耳を打った。
え、と見上げると永緒先生は険しい顔をしていた。
まずい。楠閣下が不在なのに閻魔様だけ降臨している。
これは……とんでもない勘違いをしたのかもしれない。
「あ、そ、そうですよね! すみません、早とちりでした。プライベートに立ち入るようなことを言って申し訳ございません。ええと、会議も終わりましたので私はこれで——」
自分でも何を言っているのかわからないほどの早口でまくし立てて深く頭を下げる。
油断していた。
本来、永緒先生は手の届かない立場の人だ。
それなのに、少し声をかけられただけで頼られていると自分を過信してしまった。
きっと昨日のキスだって、深い意味はないんだ。
そりゃそうだ。私の恋愛偏差値が中学生レベルで止まっていたって、永緒先生は違うはず。
きっと傍には相応しい立場の女性がいて、私はただの職場の部下。さっきの院長との会話に出ていたお見合いとおぼしき話題だって、きっと然るべき筋を通して……とか、そういう流れなんだろう。
それなのにひとりで舞い上がって、バカみたいだ。
鼻の頭がつんとして、慌てて小さく深呼吸をする。
職場で泣くな! 森野さんにいじめられたって泣いたことないのに!
「すみません、失礼します……!」
ぱっと顔を背けて出口へ向かおうと一歩を踏み出す。
だけど——腕を取られて、気づけば背中が温もりに包まれていた。
ばさ、と音がして、抱えていた資料が床に広がっているのが見える。
だけど、それを拾うどころじゃなかった。
「……すまない、急に触れるような真似をして。だが、誤解されたままでは後悔する。……だから、その」
私の腕を強く引いている永緒先生の手が少し緩められた。おずおずと見上げた先で永緒先生は眉間に深くシワを寄せていた。
「……話をしよう。俺の部屋で」
黒縁眼鏡の奥の瞳が、辛そうに細められていた。
「ああいう方なんだ。気が早くてお節介。悪いひとではないから安心してくれ」
「そうじゃなくて、お話に出てた断るだの何だのって、お、お見合いとか……ですよね。ええと、私、そういうカモフラージュ役はちょっと……」
「いつ俺が、カモフラージュ役を頼んだ?」
そのひと言は、しんとした会議室の中ではっきりと耳を打った。
え、と見上げると永緒先生は険しい顔をしていた。
まずい。楠閣下が不在なのに閻魔様だけ降臨している。
これは……とんでもない勘違いをしたのかもしれない。
「あ、そ、そうですよね! すみません、早とちりでした。プライベートに立ち入るようなことを言って申し訳ございません。ええと、会議も終わりましたので私はこれで——」
自分でも何を言っているのかわからないほどの早口でまくし立てて深く頭を下げる。
油断していた。
本来、永緒先生は手の届かない立場の人だ。
それなのに、少し声をかけられただけで頼られていると自分を過信してしまった。
きっと昨日のキスだって、深い意味はないんだ。
そりゃそうだ。私の恋愛偏差値が中学生レベルで止まっていたって、永緒先生は違うはず。
きっと傍には相応しい立場の女性がいて、私はただの職場の部下。さっきの院長との会話に出ていたお見合いとおぼしき話題だって、きっと然るべき筋を通して……とか、そういう流れなんだろう。
それなのにひとりで舞い上がって、バカみたいだ。
鼻の頭がつんとして、慌てて小さく深呼吸をする。
職場で泣くな! 森野さんにいじめられたって泣いたことないのに!
「すみません、失礼します……!」
ぱっと顔を背けて出口へ向かおうと一歩を踏み出す。
だけど——腕を取られて、気づけば背中が温もりに包まれていた。
ばさ、と音がして、抱えていた資料が床に広がっているのが見える。
だけど、それを拾うどころじゃなかった。
「……すまない、急に触れるような真似をして。だが、誤解されたままでは後悔する。……だから、その」
私の腕を強く引いている永緒先生の手が少し緩められた。おずおずと見上げた先で永緒先生は眉間に深くシワを寄せていた。
「……話をしよう。俺の部屋で」
黒縁眼鏡の奥の瞳が、辛そうに細められていた。