閻魔様の恋カルテ~冷徹ドクターの秘密は恋のはじまり~
19 閻魔様の告白
部屋に戻ると、永緒先生は少しだけドアを開けておいてくれた。
こんな時なのに気遣いを見せてくれる冷静さに安堵する。
両袖机の前によりかかると、永緒先生は口を開いた。
「ひとつずつ話す。まず、日下部さんを異性関係のカモフラージュ役に使おうとは思っていない。院長に話した内容にも嘘偽りはない。ただ、当事者であるきみが蚊帳の外に置かれたまま会話が進んでしまったことは、申し訳なく思っている」
ぴんと立てた人さし指で、とんとんと虚空を叩くように説明していく永緒先生は、やはり理路整然としていた。
けれど、まだすっきりしていないことがある。
「あの、私が当事者というのはどういうことでしょう」
「それについては……」
永緒先生の言葉が止まった。呼吸3回分の間。
長い人さし指がぐっと曲がる。すると、永緒先生はぐしゃぐしゃと乱雑に髪を掻き混ぜた。
いつものつんと澄ましている、隙のない永緒先生からは想像もできなかった仕草だ。
「ああもう、まだるっこしいことはやめだ」
驚いている私を、永緒先生は真正面から見つめてきた。
「日下部さん」
「はいっ」
改めて名前を呼ばれて反射的に背筋を伸ばす。
何を言われるのだろうか。心臓が肋骨の内側を叩いているのを感じる。
「正直に言う。俺は……可愛いもの好きではない」
……はい?
ぽかんと口を開けた私をよそに、永緒先生はポケットから院内PHSを取り出した。ストラップチャームのかぴのすけがふらふら揺れている。
「このキャラクターも、きみに言われて初めて名前を知った。恥を忍んで言うが、リスだと思っていた。院長はハムスターと言っていたが、俺の認識も似たようなものだ。好きなものを雑に認識していてすまない」
「は……い?」
生真面目に頭を下げた永緒先生は、苦虫を噛み潰したような顔で眼鏡を直した。こんな時なのに、大きな手の甲の筋に男性らしさを感じて妙にときめいてしまう。そんな現実逃避をしている私を置き去りに、永緒先生は独白を続ける。
「きみにあげたあのキーホルダーも、きみの好きな犬だと思って選んだんだ。茶色い毛玉だったからそうだと思って……犬種の勉強をしておく。重ねてすまない」
そうか、永緒先生はポメラニアンを知らなかったのか。だからあのファー付きのキーホルダーを私に……と納得しかけたけれど、それよりももっと不可解なことが降ってきたのだ。
「あの、永緒先生? お話がよく見えないのですが……その、永緒先生はポメラニアンにもかぴのすけにもあまり興味はお持ちでない……のです、よね? それならそもそもどうして、あのストラップを」
「だから!」
突然声を上げた永緒先生にびっくりする。
いつものクールな声色とは違う、切羽詰まった声と表情に固まっていると、永緒先生はバツが悪そうに少しだけ目を逸らした。ひと呼吸分の間をおいて、改めて私に視線を合わせる。
「俺が可愛いと思っているのは、日下部さんだけだ」
「…………え」
「日下部さんのことが、好きだ」
ちょっと待って。都合のいい聞き間違いをした気がする。
永緒先生が、私を、好き?
あの閻魔様が——。
こんな時なのに気遣いを見せてくれる冷静さに安堵する。
両袖机の前によりかかると、永緒先生は口を開いた。
「ひとつずつ話す。まず、日下部さんを異性関係のカモフラージュ役に使おうとは思っていない。院長に話した内容にも嘘偽りはない。ただ、当事者であるきみが蚊帳の外に置かれたまま会話が進んでしまったことは、申し訳なく思っている」
ぴんと立てた人さし指で、とんとんと虚空を叩くように説明していく永緒先生は、やはり理路整然としていた。
けれど、まだすっきりしていないことがある。
「あの、私が当事者というのはどういうことでしょう」
「それについては……」
永緒先生の言葉が止まった。呼吸3回分の間。
長い人さし指がぐっと曲がる。すると、永緒先生はぐしゃぐしゃと乱雑に髪を掻き混ぜた。
いつものつんと澄ましている、隙のない永緒先生からは想像もできなかった仕草だ。
「ああもう、まだるっこしいことはやめだ」
驚いている私を、永緒先生は真正面から見つめてきた。
「日下部さん」
「はいっ」
改めて名前を呼ばれて反射的に背筋を伸ばす。
何を言われるのだろうか。心臓が肋骨の内側を叩いているのを感じる。
「正直に言う。俺は……可愛いもの好きではない」
……はい?
ぽかんと口を開けた私をよそに、永緒先生はポケットから院内PHSを取り出した。ストラップチャームのかぴのすけがふらふら揺れている。
「このキャラクターも、きみに言われて初めて名前を知った。恥を忍んで言うが、リスだと思っていた。院長はハムスターと言っていたが、俺の認識も似たようなものだ。好きなものを雑に認識していてすまない」
「は……い?」
生真面目に頭を下げた永緒先生は、苦虫を噛み潰したような顔で眼鏡を直した。こんな時なのに、大きな手の甲の筋に男性らしさを感じて妙にときめいてしまう。そんな現実逃避をしている私を置き去りに、永緒先生は独白を続ける。
「きみにあげたあのキーホルダーも、きみの好きな犬だと思って選んだんだ。茶色い毛玉だったからそうだと思って……犬種の勉強をしておく。重ねてすまない」
そうか、永緒先生はポメラニアンを知らなかったのか。だからあのファー付きのキーホルダーを私に……と納得しかけたけれど、それよりももっと不可解なことが降ってきたのだ。
「あの、永緒先生? お話がよく見えないのですが……その、永緒先生はポメラニアンにもかぴのすけにもあまり興味はお持ちでない……のです、よね? それならそもそもどうして、あのストラップを」
「だから!」
突然声を上げた永緒先生にびっくりする。
いつものクールな声色とは違う、切羽詰まった声と表情に固まっていると、永緒先生はバツが悪そうに少しだけ目を逸らした。ひと呼吸分の間をおいて、改めて私に視線を合わせる。
「俺が可愛いと思っているのは、日下部さんだけだ」
「…………え」
「日下部さんのことが、好きだ」
ちょっと待って。都合のいい聞き間違いをした気がする。
永緒先生が、私を、好き?
あの閻魔様が——。