その青は還る 完結
 舌の根も乾かぬうちに、三日後には彼女と海に来ていた。

 車を停めて、すぐに抜け出すと、強い日差しに、さらに眉を深く顰めた。そのまま彼女が降りるのを待っていると、出てきた途端、ショートパンツを履いた姿に変わっていた。

「お前なぁ…… 、その格好はダメだろ……」思わず頭を掻いた。

 先程までは確かにスカートだった。降りる間際に脱いだことが分かった。

「だって、暑いし、夏だし」彼女はすぐに膨れて、俺のほうを軽く睨んだ。

「夏だから、焼けたら跡になるだろ……」俺はそう言いながら、シャツを脱いで、彼女の腰に、なるべく触れないように巻いて結んだ。

「なんか、戸田さんて、お父さんみたい」そう言って彼女は不服そうにしていた。

「うるさい、それ以上言うと、キスするぞ」
 悪態をついたところで、引き返せなかった。

「また、そういうこと言う」彼女は怒った顔を向けた。

「言ってねぇだろ、一度も」俺は視線を逸らして、ポケットを探りながら、歩いた。

「言いました、こないだ、車の中で」彼女は一つずつ、はっきりと言っていた。

「あー、そうですか、すみませんでした」棒読みで言ったら、短い息が聞こえた。彼女は足元に気を取られてるようだった。

 そこで彼女は俺の腕を掴んだ。振り返ってみると、彼女の額に唇が当たった。

 お互い時を止めたかのように身を固めた。一瞬だったが、その目の中に自分の気持ちを見てしまった。

「わるい、わざとじゃない。ていうか、怪我は」

 焦りすぎて言葉が追いつかなかった。

「大丈夫です。急に引っ張ってごめんなさい……」

 急に沈み込む彼女に、手を伸ばしかけた。

「気にすんな、俺も気にしてない」

 伸ばしかけた手をポケットに入れてごまかした。

「……座りましょうか」彼女は少し上目遣いで、ばつが悪そうに、俺の様子を窺っていた。

「シャツは気にすんな」そう言って、腰を下ろした。

 しばらく二人並んで、海を見ながら、少し迷ったが、彼女に尋ねてみた。

「なぁ、あいつのこと、好きなのか」

「あいつって……誰ですか」その顔は難しそうに眉を顰めている。

「……あの作曲家、佐伯」

 もう後には引けないと分かっている。

「はい。大好きです」すぐに彼女は口を結んで、少し胸を張っていた。

「そっか……」

 分かってたはずの答えを、小石に預けて、海へ放り投げた。

「おかしいですか?」彼女の顔は本当に不思議そうで、首を傾げたまま、海を見ていた。

「いや、全然。ただ……、そいつに振られたら、俺んとこ来いよ。待ってるから」

 彼女が俺を見てるのは分かっていたが、地平線を捉えることしかできなかった。
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