その青は還る 完結
 それ以来、俺は結構な頻度で店に通っていた。大義名分はないが、それなりの理由をつけていた。予想するなら、彼女は何かしら問題を抱えてる。おそらく、あの黒服にも手のつけようがない。それは俺も同じだったが、あの笑う顔が見たかった。

 ある日はファミレスに行って、またある日はゲームセンターに行った。別の日は海に行って、鍵を落としたふりをした。また別の日はタワーに登って、街の灯りを星座に例えた。

 だが、結局行くところは、あの海が多かった。景色はさほど変わりはないが、月の位置は下がって、水面が静かに凪いでいた。

 それは、夏の終わりを知らせる景色だった。

 その日は一人で、隣が空いているのが、少し寒く感じた。
煙草を口にし、火を点けて、吐き出す。そこで海を見ると、空と地平線の区別がつかなかった。

 軽く視線を上げてみると、少し欠けた月が雲に隠れていた。

 それを眺めてるうちに、恥ずかしそうに笑う顔が思い浮かんだ。

 ちぎれた雲が次々に月を隠すのを、目で追ってるうちに、寂しそうに睫毛を伏せる顔が浮かんだ。

 しばらく眺めてから、静かに瞬きをした。煙草の煙でごまかして、そのまま口にくわえた。

 それでも、また会いに行って、歯がゆさだけが増えていった。

 家まで送る距離や、車の座席の隙間。少し手を伸ばせば、影に見える小指に触れられそうだった。

「着いたぞ」

「ありがとう、ございました……」

 そこで、いつも彼女は身を固める。決して理由を聞くことはしないが、これ以上遅くなれば問題が大きくなるのは、容易に想像できる。

「帰らないのか」

「……じゃあ、また、お店で……」

 足取りの重い姿を、ただ見ていた。

 出来るなら、俺はその手を掴みたかった。

 帰らないなら、一晩中駆け回って、色んな場所に行ってもよかった。

 彼女が笑ってくれれば、ただ、それだけでよかった。

 俺は自宅へ車を走らせながら考えていた。

 幸い金は有り余っている。そう思いついたところで、コンビニに向かった。

 未だに増え続ける金額。使い道などほぼないに等しい。

 目立たないように、何度かに分けて金を下ろし、財布に仕舞った。そこから、別のコンビニに行って、同じ行動をした。

 その金全部を、俺はある人物に渡して言った。

「いずれ使うことになる」


 相手は目を据えて、俺を見ていたが、置かれた金を黙って受け取った。
< 11 / 26 >

この作品をシェア

pagetop