その青は還る 完結
その後、少し頻度を抑え、店に行ったが、彼女は居ないようだった。時間帯を変えたり、曜日を変えたりもしたが、結局は会えなかった。
連絡先は交換していたが、話す用事は特に思い浮かばない。メールを送ろうとも思ったが、途中まで打ったところで、全部消した。空になった画面もそのままに、当てもなく視線が彷徨っていた。
酒を飲む気にもなれず、席を立って、会計を済ませ、店を出た。タクシーを捕まえて、自宅に戻り、そのままベッドに倒れ込んだ。
たかが、と思う一方で、途端に感情が湧いてくる。
気づかないふりをしても、後戻りは無論、先を見ることすら嫌になった。
いつの間にか店から離れ、クラブに行っては酒を呷った。騒がしい店内の片隅で静かに呑んでいても、どこからともなく女が来て、常套文句で誘ってきた。最初は相手にしなかったが、そのうち、欲求を晴らしたくなって、誘われるまま施設にいった。ちょうどいい理屈だと思った。
家に帰っても、五線譜は中途半端で投げ出したまま。日が過ぎれば、また元通りに同じ行動をした。だが、終えたあとは、いつも嫌悪感が湧いていた。
傍らで震える音が小刻みに響いて、頼りない思考のまま、指先で辺りを探った。小さな物に触れ、手元に寄せて、ようやく画面をスライドした。耳に当てながら、どうにか重い瞼を開けようと瞬きを繰り返した。
「少し足が出た。あとは勝手にしろ」
聞き覚えのある声の主は、無愛想に言ってから、すぐに電話を切った。その内容を理解したときには、煙草に火を点けて、長く吐き出していた。
それからシャワーを浴びて、施設で時間を潰そうとした。次第に俺は落ち着いていられず、勢い任せに施設を出た。携帯を手にしたまま、ふと思いついて、言葉を綴った。だが、すぐに取り消した。考えながら歩くうちに、その行動自体に腹が立ってきた。その瞬間だった。
「邪魔だ。どけ」
考えるより先に言葉が出た。相手が拳を上げるのを、ただ見ていた。おそらく、二発目はないと踏んだが、予想通りに相手は近くの看板に八つ当たりをして去っていった。体格はよさそうでも、看板すら壊せていない。そこに座り込んだ若い男を軽く見てから、店に向かって進んだ。
そして、席へ着いてから、少しあとで黒服が近づいてきて、救急箱をテーブルの上に置いた。何か言ってた気もしたが、そこに置かれたもので口元を拭った。その間、俺は思い出していた。
昔、あの男をどこかで見かけたことを。
連絡先は交換していたが、話す用事は特に思い浮かばない。メールを送ろうとも思ったが、途中まで打ったところで、全部消した。空になった画面もそのままに、当てもなく視線が彷徨っていた。
酒を飲む気にもなれず、席を立って、会計を済ませ、店を出た。タクシーを捕まえて、自宅に戻り、そのままベッドに倒れ込んだ。
たかが、と思う一方で、途端に感情が湧いてくる。
気づかないふりをしても、後戻りは無論、先を見ることすら嫌になった。
いつの間にか店から離れ、クラブに行っては酒を呷った。騒がしい店内の片隅で静かに呑んでいても、どこからともなく女が来て、常套文句で誘ってきた。最初は相手にしなかったが、そのうち、欲求を晴らしたくなって、誘われるまま施設にいった。ちょうどいい理屈だと思った。
家に帰っても、五線譜は中途半端で投げ出したまま。日が過ぎれば、また元通りに同じ行動をした。だが、終えたあとは、いつも嫌悪感が湧いていた。
傍らで震える音が小刻みに響いて、頼りない思考のまま、指先で辺りを探った。小さな物に触れ、手元に寄せて、ようやく画面をスライドした。耳に当てながら、どうにか重い瞼を開けようと瞬きを繰り返した。
「少し足が出た。あとは勝手にしろ」
聞き覚えのある声の主は、無愛想に言ってから、すぐに電話を切った。その内容を理解したときには、煙草に火を点けて、長く吐き出していた。
それからシャワーを浴びて、施設で時間を潰そうとした。次第に俺は落ち着いていられず、勢い任せに施設を出た。携帯を手にしたまま、ふと思いついて、言葉を綴った。だが、すぐに取り消した。考えながら歩くうちに、その行動自体に腹が立ってきた。その瞬間だった。
「邪魔だ。どけ」
考えるより先に言葉が出た。相手が拳を上げるのを、ただ見ていた。おそらく、二発目はないと踏んだが、予想通りに相手は近くの看板に八つ当たりをして去っていった。体格はよさそうでも、看板すら壊せていない。そこに座り込んだ若い男を軽く見てから、店に向かって進んだ。
そして、席へ着いてから、少しあとで黒服が近づいてきて、救急箱をテーブルの上に置いた。何か言ってた気もしたが、そこに置かれたもので口元を拭った。その間、俺は思い出していた。
昔、あの男をどこかで見かけたことを。