その青は還る 完結
 店先から一歩出ると、若い男は見るからに、全てを諦めたような姿だった。体はひ弱そうだが、背は高そうで、殴られた傷以外のものは見当たらない。髪の毛は乱れているが、手入れされているようだ。

 彼はただの一般人ではない。だとすれば……。

「立てるか」と彼の腕を掴んで、支えようとしたが、思ったより背が高くて、思わず「歩けるなら、ついてこい」と言って手を離した。
 
 その場からコンビニに向かうあいだ、数年前の記憶を取り出していた。

 通い慣れたライブハウスで、俺と同じくらい歌の上手い奴がいると、誰かから聞いた。嫉妬などはしないが、一度くらい聞いてみようと思い、そいつが出る日時を確認した。

 すると、その日のうちに、ステージに上がることを知った。そいつはアコギを持って、真ん中に置かれた椅子に座った。俺は四隅の一角に行き、そこで背を預け、腕を組んで、静かに聴いた。

 その歌声は哀調を帯び、辺りは物憂げな音色に包まれていた。

 ふと気づけば、コンビニの前まで来ていて、そのまま店内に入っていた。手当てできる品物を持って、ついでにレジで煙草も買った。

 建物の影で彼を手当てしてから、煙草を差し出すと、軽い調子で受け取った。どうやら俺より若そうだが、そう大きくは違わないようにも見える。

 彼は煙草を吸いながら、軽く睫毛を伏せて、煙を吐き出していた。その表情は、目にした姿と変わらないように感じた。

 俺も同じような顔をしていたことがあるから分かる。

 おそらく、彼は……。

「あの、治療代払います」

「別にいい。その代わり、歌うたえ」

 この世界にいれば、当然どこかで噂を耳にする。だが、彼の噂は昔聞いたきりだった。

 そこで俺は、ボイトレに通え、体力をつけろと指摘してから、彼が歌いたいものを作ると伝えた。

 しかし、彼は口を閉じ、俺を見たままだった。俺は最後に目を見て言った。

「諦めるなら、この話はなしだ」

 この時俺は、どこかで落としたものを、見つけたような気がした。

 それと同時に、切れかけていた街灯が、ようやく点いて、足元の影を伸ばした。

 連絡先も交換せずに、立ち尽くした彼をそのままにし、タクシーを捕まえて乗り込んだ。

 俺は予想していた。彼とは近いうちに店先で会うことになるだろうと。
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