その青は還る 完結
 数日後、自分の予想が当たったのはともかく、店へ入ると、黒服が席へ案内したが、そいつも一緒に座った。あまりにも自然すぎて、指摘する気にもなれず、適当なキャストをつけるように頼んだ。

 その日は話すことはなかったが、数日後には店先で彼と顔を合わせた。まさかと思って、時間帯を変えてみても、結果は同じだった。そのうち俺はそいつを理由にして、店に入るようになった。ただ、どうしても名前が思い出せずに、酒を呷っては辺りを見回した。

 遠い記憶を探るように、店内の片隅のほうへ視線を投げて、ジッポの蓋で遊んでいた。

 そこに朧気な姿が浮かび、長い髪が軽く揺れた。その子が振り向いた、その瞬間だった。

「何しに来てんだ、こいつ」
 嫌味を含んだ声が聞こえ、俺は反射的に同じようなことを尋ねて、グラスを口にした。すると、彼は明らかに棒読みでごまかした。それは隠し事というより、俺に言うのを躊躇ってるように思えた。

「言いたくないなら、二度と聞かない」俺は煙草を口にして、火を点けたあとで、短く吐き出した。

 彼は苛ついているようだったが、すぐに顔を戻して、静かに答えた。

「妹を見つけたくて」

 耳にしたところで、グラスに口をつけたまま、飲み込むこともできず、テーブルの上に置いた。

「悪い、踏み込みすぎた」

「別に気にしないけど」

 そこで俺は振り返ったが、気づかないふりをした。ただ、彼の持つ理由に、引き寄せられてしまった。

 店先で彼と別れたあと、俺はある人物に電話を掛けた。

「要件だけ言え」

「俺より歌の上手いやつ知ってるか」

「知らない」声の主は相変わらず無愛想に投げると、すぐに「ただ……」と続けて、「同じくらいのやつなら、豆田翔太だ」そう言い終えると同時に、電話を切った。

 俺はすぐに昔の知人に掛けたが、無機質な音声が流れるだけだった。そのまま連絡はつかなかったが、どうせ店先で会うことは分かっていた。

 次の日、さり気なく聞いてみたが、昔のことはあまり触れられたくないようだった。その代わりに何かと話し掛けられて、ついには彼の独壇場になっていた。

 俺が何かを思い出そうとすれば、好き嫌いの話をして、考え始めてみたら、趣味や仕事の話をしてきた。酒を飲む気にもなれず、学生時代の話に遡ったところで、煙草の煙がやけに目に染みた。

「少し、黙れ」

 八つ当たりだと分かっていた。だが、豆田は躊躇いもなく言った。

「やだ。だって、話さないと何も分からないし」

 その言葉を耳にして、俺は試した。

「わかった。明日までに歌詞作ってこい」

 彼がどれくらいのものを持っているのかを、見てみたくなった。
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