その青は還る 完結
 知人は小さな骨董品屋を営んでいて、場所は大通りの外れにあった。店の中へ入ると、知人は銀縁の丸メガネを掛け、古いラジオのボリュームの調節をしていた。だが、すぐに視線を俺に向けると、体をロッキングチェアに沈ませた。

「いらっしゃい」知人はそう言いながら、メモ用紙の束を投げてきた。俺がそれを受け取ると、今度はペンを投げてきた。俺はそれらをカウンターに置く代わりに、封筒を差し出した。知人はそれを手にしたまま、俺がメモ用紙に書き記すのを、ただ見ていた。

 俺が書き終えると、知人は封筒の中を軽く覗き、視線を向けて言った。

「これでは足りない」

 吹っ掛けてきたのかと舌打ちしたが、そこで思い直して、応えた。

「二倍払う。ただ、終わってからだ」

「了解。連絡する」

 俺は一つ頷き、踵を返して、その場を後にした。

 大通りからコインパーキングに足を運び、車に乗り込んでから、どこへ行こうかと考えていた。取り敢えず曲の原型はできていて、他にすることもない。彼に歌詞を急かすわけにもいかず、海にでも行こうかと思っていたが、気づけば自宅に着いていた。

 だが、車から出てみれば、風が吹き荒んで、肌を突き刺した。軽く身を縮めながら、部屋に入って、PCの前に座った。完全にここでの生活が出来上がっていて、思わず鼻で笑った。

 ふと気が緩んだ瞬間に、腹の虫が鳴って、食事もまともにしてないと気づいた。携帯で適当に選んで、食事の手配をした。到着までの時間を確認してから、五線譜の音を確かめていた。

 そのうち夢中になって、セーターを脱いでからシャツの袖を捲った。新しい五線譜を手にした頃には体も熱くなって、ズボンの裾を捲り、靴下を脱いだ。何枚かの紙に予想した歌詞を書いてみたが、出てくる音は同じような響きだった。

 そこでタイミングよくチャイムが鳴って、玄関へ向かった。ドアを開けてみると、見覚えのある顔があった。薄っすら髭が生えているが、立ち姿や服装からすぐに店の黒服だと分かった。男は金額を言いながら、俺の顔を確かめているように見えた。

 向こうも同じようなことを思っているかもしれない。だが、ここでいきなり核心を突けば怪しまれる。少し会話をして様子を窺ったが、男は口を割らなさそうだった。

 ただ、どこかに隙はありそうで、また店に行こうと考えていた。
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