その青は還る 完結
 数日置いてから、俺は店に行って、席に着いてから、黒服に言った。

「たまごちゃん、いる?」

 そこで黒服は軽く唇を尖らせ、すぐに戻して応えた。

「出勤しておりません、他のキャストをお付けしましょうか」

「断る」

 答えは予想通りだったが、警戒されているのは分かるが、隠しているようには見えなかった。
 それから数日間。俺は店に通って、何も言わずに、ただ水を飲んだ。帰る間際には、辺りを見回してから、席を立って、会計を済ませた。

 そこから一日空けて行くと、店先で豆田と顔を合わせた。その時、彼から出来上がった歌詞の紙を渡された。店に二人で入ると、思った通りに、違う黒服が席に案内してくれた。二人並んで見回していたら、例の黒服が通り際に、少し立ち止まってから、俺に向かって言った。

「また来てんすか、暇そうでいいすね」

「金は払ってる、何もしてない、ただ見てるだけだ」

 俺はただ事実だけを伝えた。

「何度来ても変わりませんよ。今は」

 ここまでは計算通りだ。あとは……。

「なら、いい。帰るぞ」
 そう言って俺は席を立ったが、豆田は動じず、澄ました顔をしていた。俺は軽くテーブルの上を片付け、札を二枚置いて、その場を後にした。

 家に帰る前に、コンビニに行き、飲み物を買いだめした。ついでに煙草もカートンで頼んで、お釣りを募金箱に入れた。自宅に着いたあとは、部屋に入って、冷蔵庫に適当に飲み物を置き、すぐにシャワーを浴びた。鏡を見ると、少し髭が伸びていて、夏頃に聞いた言葉を思い出した。そこで、悪くないと思いながら、口元を綻ばせた。

 浴室から抜け出して、煙草と灰皿を手に、椅子に腰を下ろし、本格的な曲作りに没頭した。

 豆田から渡された歌詞は、さほど変わりなく、原型の中に収まりそうだった。おもむろに立ち上がり、クローゼットからギターを取り出した。そして椅子に戻って、PCを操作したあとで、弦の上に手を下ろした。

 曲は彼のものだが、俺は歌詞を口にしながら、その姿を追っていた。

 どれだけ日々を過ごしても、何かの拍子で思い出してしまう。

 些細なきっかけに見ないふりをしても、同じものが目に入る。

 一言でも送れば、返ってきたのかもしれない。手を伸ばせば触れられる距離だった。

 だが、俺はその気持ちを隠してしまった。

 静かに指を離して、録音ボタンを止め、ギターをデスクの脇に立てかけた。

 そして、煙草を口にし、火を点けてから、吐き出した。手にしたジッポの音が虚しく聞こえた。
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